フランス大統領選、終末期医療に関する議論がひとつの争点

2022.04.07

選択フランス大統領選が4月10日(日)に迫り、候補者の公約に注目が集まっています。中でもフランスで長く議論され、現職のマクロン大統領が再選後に取り組むと公言しているのが終末期医療に関する議論です。

 

フランスにおける終末期医療の現行制度

フランスでは近年、病気により激しい苦痛があり死の迫っている患者に対し、致死的な薬を投与することで死なせる行為について、どのような法整備を行うかが議論されてきました。

とくに2005年には「患者の権利及び生の終末に関する法律(Loi relative aux droits des malades et à la fin de vie)」が成立、2016年には「患者及び終末期にある者のための新しい権利を創設する法律(Loi créant de nouveaux droits en faveur des malades et des personnes en fin de vie)」が成立するなどの動きがみられます。

2016年法は、治療の難しい病に苦しむ患者が安楽死を選ぶ権利を保証する制度で、患者が薬剤をつかって迅速かつ苦痛のない死を迎えることを想定しています。

ただし現時点でフランスは、終末期において患者の意思による決定を尊重すること、また、緩和医療を行ない、尊厳ある死を保障することが推進されている一方で、安楽死を合法化しているわけではありません。

 

2022年大統領選での争点

フランスで議論されているのは、不治の病に苦しむ患者に医師が致死的な薬剤を投与する「安楽死(euthanasie)」、あるいは患者自身が薬剤を注射する「自殺ほう助(suicide assisté)」などが認められるような立法の是非です。

すべての候補者が明言しているわけではないものの、左派の候補者は以上の法制定に向けて概ね積極的な態度を示しています。

一方、右派の候補者は法制定に慎重でありながら、2016年法の改正によって安楽死の問題に対処しようとしています。

左派候補者、法制定に積極的

現パリ市長のアンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)氏は、自殺ほう助の合法化に積極的です。イダルゴ氏は「尊厳ある死のための協会(l’Association pour le droit de mourir dans la dignité)」に所属しています。

公約では、事前の指示によって患者の医師が尊重され、緩和治療へのアクセスがあり、死ぬための積極的なほう助がある、という3つの原則に沿った自殺ほう助を想定した法制定に言及しています。

共和党のジャン=リュック・メランション(Jean-Luc Mélenchon)氏も、自殺ほう助は自殺を強制することにはならず、憲法にも沿うものとしています。

緑の党のヤニック・ジャド(Yannick Jadot)氏は、安楽死の合法化、緩和治療に特化した施設の設置を宣言しています。

右派候補者は慎重

エリック・ゼムール(Eric Zemmour)氏は、自殺ほう助を認めない方針を示しています。また好ましくない帰結をもたらす危険を懸念し、安楽死も認めないとしています。

一方で、治療による苦痛はなくすべきと言い、終末期医療に関する議論を完全に断っているわけではありません。

保守党のヴァレリー・ペクレス(Valérie Pécresse)氏は法制化には言及していませんが、2016年法の完全な適用を求めています。フランス人のなかで緩和医療へのアクセス格差があるとして、この解消に取り組む方針です。

極右のマリーヌ・ルペン(Marine Le Pen)氏は、安楽死を合法化する準備は整っていないとしつつ、フランスは緩和医療の分野で遅れをとっているとして、この発展に取り組むと宣言しています。

マクロン大統領、議論は専門家と

マクロン氏は「市民の協約によって」「より人間らしい最期を」迎えられるようにするとして、倫理の専門家などと議論を行うと公約で宣言しています。

執筆あお

参照
国立国会図書館 調査及び立法考査局(2017)「終末期医療と「安楽死」「尊厳死」―法制化の現状―」『レファレンス』793、89-115 リンク
Légifrance LOI n° 2005-370 du 22 avril 2005 relative aux droits des malades et à la fin de vie (1)
Légifrance LOI n° 2016-87 du 2 février 2016 créant de nouveaux droits en faveur des malades et des personnes en fin de vie (1)

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