3月1日(火)、ロシアがウクライナに侵攻して5日間が経過し、続々と発表される対露経済制裁による影響がフランスでも各方面に出ています。フランス大統領選挙の出馬表明の期限が3月4日に迫る中、核をちらつかせるロシアへの牽制などに追われるマクロン大統領は未だ立候補を表明していません。
マクロン大統領、期限迫る「出馬表明」スケジュール狂う
フランス憲法評議会で決められた出馬表明の期限まであと4日に迫っていますが、マクロン大統領の再選に向けた出馬表明のスケジュールは、ロシアのウクライナ侵攻によりタイミングが難しい状況に陥っています。
昨日2月28日も各国政府とのテレビ会議準備のための国防評議会を開くなど、対策に追われています。
そのため、今週末マルセイユにて予定されていた選挙キャンペーン第一回目の大型集会も開催が危ぶまれています。
もっとも、今回のロシアによるウクライナ侵攻は、EUの中心的存在であるフランスやドイツにとって政治的に不都合な時期を選んだと言われています。
フランスでは大統領選まで2ヶ月を切っており、ドイツは重鎮のメルケル首相が退任しショルツ首相による新政権が発足したばかりです。
フランス、対ロシア投資で2位、16万人雇用
ロシアへの経済制裁は、同国への投資額が最も大きいEU加盟国にも大きな影響を与えています。
特にフランスとロシアの関係は深く、フランスの上場企業上位40銘柄のうち35社が投資しており、現地に拠点を持つ企業は700社にのぼります。
フランス企業はまた、外国籍企業として最大の雇用主でもあり、実に16万人の現地労働者を雇っています。
ルノー(Renault:自動車)、ダノン(Danone:食品)、オーシャン(Auchan:スーパーチェーン)、ルロワ・メルラン(Leroy Merlin:ホームセンターチェーン)をはじめ、多くは現地に子会社を置き、本格的な店舗展開を行っています。
たとえばフランス大手スーパーチェーンのオーシャンだけでロシアに240もの店舗を持ち、3万人を雇用しています。
これらの企業に及ぼす対露経済制裁の影響は少なくなく、ルノーの現地工場では、部品不足により昨日28日は工場を閉鎖しています。
特に影響が大きいのはロシアの銀行ロスバンク(Rosbank)を傘下に持つ仏銀行ソシエテ・ジェネラル(Société générale)で、国際決済網スイフト( Swift)からのロシア除外で業務に支障をきたしています。
在ロシア仏企業、駐在員の帰国は「反プーチン的?」中立維持に苦慮
これらの企業では仕入れなどへの物理的な影響が出ているのみならず、政治的に中立的な立場をとることに神経を尖らせています。
対外的には「経済制裁の影響はない」と発表するものの、実際現場では多くの問題に直面しています。
特に難しいのは社員の扱いで、フランス人など外国籍の社員を帰国させる事に関し、ロシア人従業員は会社が「反プーチン的な行動をとっている」と批判的な目で見ています。
ノルマンディー名産、カルバドス酒の輸出がストップ
在ロシアの仏企業のみならず、フランス国内の中小企業にも影響が出始めています。
ノルマンディー地方にあるスピリット・フランス社(Spirit France)では、売り上げの15%を占めるロシアへの輸出がストップしています。
現地の大手ディストリビューター2社は、ユーロで仕入れた商品を地元では現地通貨ルーブルで販売していましたが、日々変わる為替レートの大きな変動で「一体いくらで販売していいかわからない」から一旦販売を中止すると連絡を受けました。
航空産業、製薬、香水、農業…仏企業への影響把握急ぐ
ロシアへの輸出が多い産業としては、航空産業を筆頭に、化学、薬品、香水、化粧品、工業機械、農業など複数にのぼり、その影響は多岐にわたっています。
フランス政府は、外務大臣付対外貿易・誘致担当大臣のフランク・リースター(Franck Riester)氏を中心に、ロシア経済制裁の影響を受けた企業の状況把握を急いでいます。
輸出だけでなく、仕入れや支払いが困難になるなど、今回の経済制裁によりなんらかの影響を受けた企業に対し、その状況を専用サイトから報告するよう呼びかけています。
執筆:マダム・カトウ