9月8日(水)、パリで2015年11月13日に発生し、130名の死者と350名の怪我人をだした同時多発テロの裁判が開始しました。被告人20名のうち、実行犯のなかで唯一生き残ったサラ・アブデスラム(Sarah Abdeslam)被告が出廷しました。
最終判決は2022年5月末に予定され、裁判はそれまで約8ヶ月続く予定です。
パリ市内で裁判を開始
作りたての仮設法廷
裁判は、パリ市内のシテ島にある最高裁判所(Le palais de justice de Paris)の仮設法廷で行われます。
今回の事件では入廷者の人数が多く、また裁判所は以前から移転が計画されていたことから、仮設の法廷が建設されることになりました。コロナウイルスの感染拡大で工事の中断などがありましたが、2021年6月にフランス国内では最大規模となる仮設法廷が建設されました。
およそ750平方メートルの大法廷は550名まで収容できますが、コロナ感染対策の観点から傍聴者は1席ずつ空ける必要があり、収容人数は現在50%に制限されています。
この大法廷は今後、2016年7月にニースで起こったテロ事件の裁判にも使用される予定です。
万全のセキュリティ
重大事件の裁判であること、また傍聴者の同席という状況に際し、法廷内の安全確保と混乱回避には最大限の注意が払われています。法廷の入り口には12台以上の金属安全探知機を設置し、外部にも安全地帯を設けています。
被告人は毎日、裁判所内の決められたルートを通り、法廷内の被告人席まで移動します。また、裁判所までのルートも厳重な警備がなされ、被告人同士も接触のないように配慮されます。
一般の膨張者やメディアは、被告人らとは別に入り口から法廷に入ることになっています。
裁判の概要
陪審員は設置せず
この裁判は、事件のために特別に組織された重罪院(Cour d’assises)裁判の形式で行われ、65歳のジャン=ルイ・ペリー(Jean-Louis Péries)氏が裁判長を務めます。
ペリー氏は、これまでにパリ近郊のエッソンヌ県ヴィリー・シャティヨン市で起きた警官襲撃事件などを担当し、2020年4月から今回の事件の裁判に従事してきました。
重罪院裁判には通常、陪審員が出席するのですが、今回のようなテロ事件には、陪審員は関与せず裁判官のみが判決に関わります。
裁判の内容
被告人らは、11月13日夜に起きた一連の事件への関与の程度を問われることになります。
このテロ事件は、まず、パリ郊外サン・ドニにあるスタジアム(Stade de France)で行われていた独仏のサッカー対抗戦中に、3名のイスラム過激主義者(ジハーディスト、jihadhistes)が起こした自爆テロから始まりました。
同時刻には、パリ10区・11区のバーやレストランでは、3名の実行犯が銃撃事件を起こし、39名が亡くなりました。直後には、同じく11区のバタクラン劇場で90名の観客を襲った後に、警察との銃撃戦や自爆テロを起こしました。
20名の被告人
テロ事件の実行犯は、モロッコ系フランス人のアブデスラム氏を除き、すでに亡くなっています。アブデスラム氏は2016年3月に逃亡先のベルギーで逮捕され、唯一の直接的な関係者として証言を求められています。
共犯者として起訴されている13名のうち、11名はモロッコ系のベルギー人で、テロ事件のロジスティクスや護送などに関わった疑いが持たれています。他の2名はそれぞれアルジェリア人とパキスタン人で、共犯を疑われています。
約300名の証言者
今回の裁判に先立ち、起訴が決定した時には、犠牲者の遺族などを含む1,800名が証言者として名を挙げられました。さらに800名ほどが事件の犠牲者として特定されていますが、実際のところ何名が証言を行うのかは不確定といいます。
パリ控訴院の予測では、300名近くが証人喚問をするといい、裁判中にはテロ事件や国際刑事事件を担当する検事によるPNAT(Parquet national antiterroriste)が動員されます。
原告側としては、イスラム原理主義(ジハーディスム)の捜査員や専門家、また被告人アブデスラム氏や亡くなった被告人らの元婚約者、母親、姉妹などが証言を行います。
8日の裁判
8日12時半(フランス時間)、アブデスラム氏は全身黒の服とマスクを身に着け、2名の弁護士とともに出廷しました。
2016年にベルギーで身柄を確保されて以来、アブデスラム氏はほとんど目立った証言をしていません。8日には、ペレー裁判官が職業を尋ねると、「わたしはイスラム国の戦闘員になるため、全ての職を放棄した」と回答しました。
直接的に事件に関わった唯一の生存者として、アブデスラム氏が今後、事件に関してどのように証言するかが注目されます。
執筆あお
参照 「フランス共和国の司法制度」