12月6日、黄色いベスト運動が始まってから17日が経過しましたが、道路の閉鎖で交通や商品の配送、郊外の商業施設へのアクセスが妨げられるなど、フランス全土で経済への影響が出始めています。
今年後半、フランス人の購買力は上がる見込みだった・・・
フランス国立統計経済研究所(INSEE : Institut national de la statistique et des études economiques)は、10月の時点で今年後半の経済成長率は、第三半期(7月~9月)が+0.5%、第四半期(10月~12月)は+0.4%と、今年前半の+0.2%を大きく上回るという楽観的な予想を発表していました。
その理由としては、今年の後半からインフレが後退し、さらに今年施行された給与所得者に対する失業保険料本人負担の撤廃で手取り賃金が増え、8割の家庭では住民税も撤廃されるなど、フランス人の購買力が上がるとの見込みだったからです。INSEEはまた、企業も今年の後半も積極投資を続けると見ていました。
しかしながら、11月の政府による燃料税増税の発表で「黄色いベスト」運動が起こり、この楽観的なシナリオは音を立てて崩れ落ちました。
クリスマス商戦の消費が冷え込み
毎年12月は、クリスマスプレゼント探しにお店をはしごし、家族や友人たちとレストランで食事に出かけるなど、フランスでもっとも個人消費の盛んな時期です。商店にいたっては年間の総売上の25%~40%をクリスマス商戦で稼ぐといっても過言ではありません。
しかしながら今年は、黄色いベスト運動のために石油保管所への道路や郊外のショッピングセンターへのアクセスがブロックされ、給油所にガソリンの供給が不足し、商店は品物の補充ができず、客足が遠のくなどの被害がでています。また、デモ参加者の一部によって暴動が起こる危険性への不安から買い物や外出を控えるなど、フランスの消費活動全体に深刻な影響が出始めています。
フランス人の4人に1人が買い物を断念
フランス商店連盟3団体を代表するアリアンス・デュ・コメルス(Alliance du commerce)のヨアン・ぺティオ(Yohann Petiot)氏は、昨日政府が発表した燃料税値上げの撤回を受け「政府の発表がどれだけ効果があるかはわからないが、治安への不安が客足に影響している」と語っています。オピニオンウェイ・ペリフェム社による世論調査によると、フランス人の4人に1人がこの理由で買い物を断念しています。
また、 アリアンス・デュ・コメルス傘下の小売商店連盟(FCD : Fédération du commerce et de la distribution )のジャック・クレイセル(Jacques Creyssel)氏は「当初は(黄色いベスト運動は)規模も小さかったが、今ではロータリーなどに24時間体制で待機して交通を麻痺させている」、とフランス各地の商店への影響を懸念しています。また過去3週間で遺失した売上は推定で10億ユーロ(約1283億円/1ユーロ=128.3円で換算)と推定しています。
雇用にも影響
大手のスーパーやショッピングセンターでは、毎年クリスマス商戦に多くの短期アルバイトを雇用しますが、大手スーパーチェーン、オーシャン(Auchan)は、この3週間で約5000万ユーロ(約641億円)の売上を失ったことから、今年は予定していた5000人のうち8割をキャンセルする可能性があるとしています。
運送業界に大打撃、運転手便乗ストも
フランス運送および倉庫業連盟(L’Union TLF)によると、黄色いベスト運動の影響で「我々の事業は彼らの犯罪行為のおかげで被害を被り、運送業者も社員も顧客も皆辟易して」おり、その被害は6億~8億ユーロ(約769億~1000億円)に上ると推定しています。さらに、労働組合は黄色いベスト運動に便乗する形で長距離トラック運転手にストライキを呼びかけ、長距離運転手の残業手当上乗せ額廃止に不服を訴え、12月9日(日)から無期限のストライキに突入する模様です。
観光業界にも影響、12月のホテルキャンセル相次ぐ
黄色いベストのデモが暴動化した画像が世界中のメディアで報道され、パリの観光業界に打撃を与えています。
パリの年末最大のイベント、シャンゼリゼ大通りのカウントダウンですが、12月1日のデモ後、パリのホテルでは年末の予約を中心に約35000室のキャンセルがでています。特にシャンゼリゼ大通り付近の最高級ホテルなどは、キャンセル後も新規予約が例年より10%ほど減っているなど、イメージダウンによる悪影響が続いています。
明日8日(土)、黄色いベスト運動は3回目のデモを予定しています。シャンゼリゼ大通りでのデモは許可されていませんが、治安維持のため商店やレストランは休業を強いられています。また、エッフェル塔やルーブル美術館などパリ市内の一部の美術館も閉館するところが出ています。
執筆:マダム・カトウ