フランス語には、発音も綴りも意味もそっくりな単語が多数存在します。
以前に「似ているけれどまったく違う表現」についてお話しました(オネフェ・オフェットゥ・オンフェットゥ…紛らわしい表現はまとめて覚えよう!)が、今回は「意味も似ている表現」の見分け方を一緒に考えていきましょう。
辞書を調べるときは「つづりの違い」に着目する
私たちが辞書を調べる時、その意味だけを調べたり訳したりしがちです。しかし、発音やつづりのみならず、意味すら似ている表現が出てきたときには、一体違いは何なのかわからずに、仏作文の時にはどちらを使えばいいのかわからないという事態に陥ってしまいます。
そういう時は、意味の部分だけではなく、「つづりの違い」に注目しましょう。
amener / emmener
この二つの単語、左がアムネ、右がオンムネと発音します。この二つを手持ちの辞書で確認してみると
amener:連れていく、連れてくる
emmener:連れていく、送っていく(⇔amener 連れてくる)
とあります。
emmener の説明の中に、「⇔amener 連れてくる」とあるので、お互いに反対の意味を持つ対義語であることがわかります。しかし、よく見てみると amener の方にも emmener と同じ「連れていく」という意味が含まれています。
例文を確認しても
Il amène son fils à l’école. 彼は息子を学校へ連れていく。
Il emmène son fils au cinéma. 彼は息子を映画館へ連れて行く。
と、どちらも同じような文章が挙げられていて、一体この違いは何なのか、と新たな疑問がわいてきます。
こういう時には、二つの単語の「つづりの違い a と em」に注目します。
接頭辞 a と en/em の持っている意味を確認しよう
ここでとても重要なのが、接頭辞(接頭語)とよばれる、基になる言葉の前についているものの持っている意味です。
a-
ラテン語が起源の接頭辞で、「方向」「目的」「ある状態への移行」といった意味を持ちます。この他にもac- / ad- / af などに形を変えたものがあります。「~の方へ向かって」という意味と覚えておきましょう。
同じ「a-」という接頭辞でも、ギリシャ語を起源に持つものは「欠如」「否定」を表しますので、違いに気を付けましょう。
en- / em-
こちらもラテン語が起源で、「~の中へ」「~にする」「ある状態への移行」「遠くへ」「向こうへ」という意味を持ち、「ここから離れてある場所へいく」という意味があります。b / m / p の前では em- を用います。
amener と emmener の意味を確認しよう
接頭辞の持つ意味がわかったところで、今度は二つの単語の意味を接頭辞の持つ意味と一緒に確認してみましょう。基になる単語「mener」は「連れて(いく)」「導く」「運ぶ」という意味があります。
amener
Jean-Michel が Jean-Paul を Jean-Marie のところへ「連れてくる」。これが amener です。そして、
Jean-Michel が Jean-Marie を Jean-Paul のところへ「連れていく」。これも amener です。
どちらも、連れて「いく」のか「くる」のかが問題なのではなく、「自分・相手のいるところへ」誰かを導いていく、という「行き先・方向」に焦点が当てられていることがわかります。
emmener
Jean-Michel が Jean-Marie と Jean-Paul をここから離れた場所へ「連れていく」。これが emmener です。ここから「離れていく」「連れ去る」という事に焦点が当てられています。
別の表現でも確認してみよう
他にも、物に対して使うapporter / emporter も同じ様に確認することができます。
apporter
物を誰かのところへ「持っていく」「持ってくる」「届ける」。
N’oublie pas d’apporter ton passeport demain ! 明日はパスポートを持ってくるのを忘れないでね。
Apportez-lui ce médicament. 彼にこの薬をもって行ってください。
もって「行く」のか「来る」のかは問題ではなく、「誰に」「どこに」という行き先に焦点が当たっていますね。
emporter
物をここから離れた場所へ「持ち去る」「運び去る」。
Emporte tes affaires ! あなたの荷物もって行ってよね!
目的地は特に問題ではなく、ここから運び出す、持ち出すことに焦点が当たっています。
最後に
つづりも発音も、そして意味も似ている単語。
一見するとどれも同じように見えて、どれを使っても一緒じゃん!と思えてしまいますが、語源や接頭辞などを確認すると、日本語の上ではわからなかった、本来持っている言葉の性格が見えてきます。
接頭辞などに注目しながら単語をじっくり観察してみると、今までとは違った新たな発見ができるかもしれません。
執筆 Daisuke