フランスは、本土だけでもドイツ、スイス、イタリア、スペインなど8カ国と隣接しており、それぞれの地域の建築や食文化などの影響を受けています。今回は、フランスの中にあるスペイン領のリビアという街にスポットをあててみました。約1,500人の人口しかいない小さな街ですが、調べてみるとローマ時代まで遡る歴史的にかなりユニークな場所でした。リビアの波乱の歴史と平和までの歩み、そして観光名所をご紹介します。
フランスの中のスペイン領 リビアの歴史
最初に、リビア( Llivia )という街について簡単に紹介しましょう。
場所:フランスのピレネー山脈内に位置するスペイン領。フランスでは、スペインの飛び地と呼ばれています。
アクセス方法:バルセロナから車で2時間半。または、近隣の街プッチサルダーから車で10分。
面積:約12㎢
人口: 約1,500人
言語:カタルーニャ語 (公用語) とスペイン語
町役場、教育、警察、郵便などはスペインの行政システム、医療はスペイン・フランスの共同医療センターで治療がうけられるよう柔軟に対応されています。シェンゲン協定により、現在は国境検問なしで行き来が可能になっています。
リビアがフランス領にならなかった理由
ヨーロッパの歴史は戦争がつきもので、フランスとスペインも23年にわたる戦いが繰り広げられました。1659年のピレネー条約の承認によって戦争に終止符がうたれるわけですが、そこで両国の交渉がおこなわれました。スペインのフェリペ4世の娘とフランスのルイ14世との結婚、そしてピレネー山脈にあるカタルーニャ地域の分割の提案です。
スペイン側はカタルーニャ地域の33の村をフランスに譲渡するという条約を受け入れました。しかし、小さい面積ながらもリビアだけは村ではないことをスペインは主張。リビアは古代ローマ時代に村ではなく、街として登録されていたためです。そして、リビアは譲渡されることなく、フランス本土の中のスペイン領に属したまま新たな転換期を迎えることになったのです。
フランスとリビア 友好関係までの波乱の道のり
やがてスペイン人は、スペイン本土とリビアを繋ぐ中立道路(領有権はフランス)を使って行き来できるようになったのですが、ここにフランス側が設置した停止標識がいざこざを起こす結果になってしまいました。
フランス側「この道路は事故が頻繁に起きて危険だから、停止の標識を設置しよう」
スペイン側「ここは中立道路で、我らが自由に行き来を許される場所。勝手に標識を立てるのは断固反対!」
お互いが主張を譲らず、フランス側が標識を設置する→スペイン側が撤去するが繰り返されることに…。縄張り意識やお互いの愛国心が高まり、争いが絶えない時期が続きました。最終的には橋が設置されたことで事故が減り、一件落着となったのです。
その他にも、道路、運河、牧草地帯をめぐり違法な密輸や暴動が頻繁に起こり、フランスとスペインの両国で数回にわたる協定の見直しがおこなわれました。そうして少しずつお互いの友好関係と平和が築かれていったようです。1995年のシェンゲン協定によって自由化となり、この中立道路の設定は解消されました。
リビアの現在 見どころや観光スポット
毎年7月上旬におこなわれるのが、リビア周辺の「国境の確認」です。これは、リビアと隣接しているエスタヴァール市 ( Ville de Estavar ) の共同作業となっています。
47カ所設置されているといわれている石の国境標の劣化やズレがないかを、両街の市役所、外交関係者などが立ち会って、1つづつ巡視してチェックしていきます。
複雑な立地にあるリビアの国境管理が主な目的ですが、毎年現場で再確認をすることによって平和を保つ伝統的な慣習という意味合いもあるようです。
また、EU初の試みで、スペインとフランスの共同の医療センターが設立されました。スタッフは両国の言語、医療制度に対応しており、患者にとってより良いケアを提供するだけでなく、国境地域でのアクセスの格差を軽減する役割も担っています。
リビアのおすすめ観光スポット
リビアの歴史に触れることができる街並みや建築物は大変興味深く、ヨーロッパ最古の薬局が残されているミュージアムも見どころの1つです。その当時の薬を調合するために使用されていた器具、バロック時代の毒薬入れ、ルネッサンス時代の貴重な箱のコレクションなども展示されています。
フランス本土の中なのに、リビアに一歩踏み入れるとカタルーニャ語での標識に変わります。色濃いスペインの雰囲気が感じられる、そんな不思議な体験をするのも面白いのではいでしょうか?
まとめ
隣国と平和的な関係を築くというのは、そう簡単ではないことが歴史を通して見えてきます。陸続きであるからこそ、お互いのアイデンティティを強く意識して時には争いが勃発。しかし現在は、このハイブリッドな立地を活かそうという視点で両国が歩み寄っています。歴史的観点から見ると、興味深いフランスの中のスペイン「リビア」。豊かな自然もありますので、機会があれば立ち寄ってみてくださいね。
執筆 YUKO