貴族のサロン?優雅で華やかなフランス競馬・凱旋門賞

2024.10.16

フランスでは毎年10月第1日曜日に、世界最高峰の競馬レースの一つである凱旋門賞(Prix de l’Arc de Triomphe)がパリのロンシャン競馬場(Hipódrome de París-Longchamp)で開催されます。競馬はフランスでも「ギャンブル」ですが、貴族のたしなみとして始まった歴史があり、日本とは違い欧州特有の優雅な雰囲気が漂います。今回はその凱旋門賞とフランスの競馬についてご紹介します。

 

競馬人気の高いフランス

イギリスで生まれた競馬がフランスに紹介されたのは17世紀のことで、その後王族や貴族に好まれて発展していきます。マリー・アントワネットも馬遊びを好んだといい、パリ東部のヴァンセンヌの森で競馬を開催したこともあるそうです。19世紀になるとパリのロンシャン競馬場も整備され、社交界のサロンの延長として優雅な雰囲気を保ったまま現在にいたります。

フランスは欧州でも競馬人気が高い国です。数万人規模以上の町には必ずと言っていいほど競馬場があり、その数250以上ともいわれています。2019年の競馬の売上は世界6位(1位は日本)だそうです。

馬券は、日本のJRAにあたる場外馬券発売公社(Pari Mutuel Urbain、通称「PMU」)が販売しています。PMUの販売網は全国くまなく整備され、街なかの売店(Tabac)やカフェなどでも馬券を購入できます。

写真:凱旋門賞の会場となるパリロンシャン競馬場の入口

 

歴史と格式のあるパリロンシャン競馬場

凱旋門賞が開催されるパリロンシャン競馬場は、パリ16区の広大なブローニュの森の中にあり、凱旋門からは5キロほど離れています。1857年開設とフランスでも古く、その歴史や格式から世界で最も優雅な競馬場とも言われます。2015年から3年間にわたる改修工事で、今では観客席やパドックなどは近代的な設備となっています。

ちなみに、全仏オープンが行われるローラン・ギャロス(Stade Roland Garros)もすぐ横にあり、昔から競馬やテニスなどパリ上流階級の社交の場であったことが想像されます。

写真:広大なパリロンシャン競馬場

 

世界最高峰のレース、凱旋門賞とは

1920年に始まった凱旋門賞は第2次世界大戦中のパリ占領時をのぞき毎年開催され、今回で103回目を数えます。それでも競馬発祥地であるイギリスのレースより歴史は浅く、また賞金総額や入場者数・収益では日本やアメリカの大きなレースに及びません。

ですが歴史的な名馬が数々出場しており、知名度では世界一といえます。フランス馬のトレヴ、イギリス馬のエネイブル、さらに日本馬のディープインパクトなど、競馬ファンでなくてもその名前を聞いたことのある名馬が凱旋門賞を走っています。

独特の華やかな雰囲気

また何より上流階級のたしなみとして始まったという歴史から、会場にはモナコのカジノにも通じるような「サロン」としての独特の華やかな雰囲気が漂います。見物客の中には、舞踏会にでも行くかのようなオートクチュールのフォーマルウェアでドレスアップした人も見られます。

なお、フォーマルな帽子を身につけた女性や、出身国の民族衣装でドレスアップした外国人などは入場料が無料になることもあるようです。実際に、私の日本人の友人が試しに浴衣を着て行ったところ、フランス人には着物と認識され無料で入れていました。

凱旋門賞は2008年からカタール政府がメインスポンサーになり、現在の正式名称は「Qatar Prix de l’Arc de Triomphe」となっています。会場ではアラブ式の豪華な飾りつけやもてなしが見られ、それが来場者をさらに華やかな気分にさせてくれます。

写真:入口にはキラキラの凱旋門が

今年の凱旋門賞は

凱旋門賞のある日は他にも複数のレースが開催されます。ですが凱旋門賞は賞金総額500万ユーロと他とは文字通り桁違いで、観客の盛り上がりもまったく違います。今年はくもり時々雨のぬかるんだ芝生という状態で、悪天候に強くもともと人気の高かった7番の英国馬Bluestockingが優勝しました。14番のLos Angelsや16番のAventureと最後まで競り合う、白熱したレース展開でした。

写真:観客はトラックのすぐ横まで近づくことができる

 

日本で人気の高い凱旋門賞

凱旋門賞ではこれまで欧州馬以外の優勝はありません。日本馬は1969年以来で合計34頭が出走し、1999年、2010年、2012年、2013年の4回、2着を記録しています。今回日本から出走したシンエンペラーは、残念ながら12着という結果でした。武豊騎手が騎乗したフランス馬のAl Riffaは11着でした。凱旋門賞は日本馬や日本人騎手にとっては、挑戦の場といえるでしょう。

一方、収益という面では、凱旋門賞にとって日本はなくてはならない重要な国です。JRAによると2023年の凱旋門賞の全世界での売上約86億円のうち、日本国内が42億円と売上の約半分を占めるとのこと。その前年の2022年は日本だけで約65億円を売り上げ、海外馬券の日本国内発売額では史上最高だったそうです。いかに日本で凱旋門賞の人気が高いかが分かります。

それを示すかのように、会場には日本人が多くみられます。コロナ禍後はパリ市内で日本人観光客を見ることがめっきり減りましたが、それが嘘のように凱旋門賞の会場ではアジア人はほぼ間違いなく日本人という状況です。そのため会場内の表示はフランス語・英語・日本語が併記され、日本語を話す案内係も多く配置されています。

会場のアナウンスでも「日本でもたくさんの観客がこのレースを見守っています」と日本のパブリックビューイングの状況を中継する映像を流したり、日本人騎手にインタビューをしたりと、凱旋門賞にとって最重要顧客である日本を意識した演出が多くなされています。

写真:会場内には多くの日本語表示がある

 

競馬に興味がなくても楽しめる

凱旋門賞の会場にはフードトラックやバーなども随所に配置され、ピクニックがてら訪れる家族連れも多くいます。その一方で、日本の競馬では味わえない欧州競馬独特の優雅な雰囲気も味わうこともできます。ギャンブルをしない人でも、雰囲気を楽しむだけでも行く価値があると言えるでしょう。

執筆 Takashi

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