夏のバカンスが終わって人々が街に戻ってくると、いろいろなイベントが一斉に始まります。パリコレやパリ・オートサロンなど世界的に有名なイベントも目白押しですが、そこまで有名ではないもののフランスらしいイベントもたくさんあります。
日本で秋というと芸術や食欲といった枕詞が真っ先に挙がると思いますが、それはフランスでも同じこと。今回は芸術の秋・食欲の秋のパリを彩る面白いイベントを3つご紹介します。
ヨーロッパ文化遺産の日「Journées européennes du patrimoine」
毎年9月の第3週末は「ヨーロッパ文化遺産の日 Journées européennes du patrimoine」です。博物館や美術館などの文化施設が無料もしくは割引になるほか、普段入れない歴史的な施設や政府機関が見学できるイベントです。
フランスの文化省が1984年に提唱し、現在ではEU諸国とその周辺国で一斉に開催されています。ヨーロッパという共通の土台に立つ文化遺産を大切に広めていこうというのが目的です。
フランスでは1万5000以上の施設が見学可能で、パリで最も人気のスポットはやはり大統領官邸のエリゼ宮。毎年夜明け前から長大な行列ができ、待ち時間が7ー8時間にもおよぶとニュースで報道されるほどです。
私自身は、今年(22年)は上院議会と財務省に行きました。開放直後の時間帯でほとんど待たずに入ることができ、財務省では大臣執務室まで見せてくれるという大盤振舞いぶりでした。
このイベントはフランスに限らずヨーロッパ各国で行われるので、このタイミングで欧州を訪れることがあれば、普段の観光とは違った面白いものが見れるかもしれません。
写真:フランス下院議会も見学できます
夜の芸術祭「Nuit Blanche」
Nuit Blanche は毎年10月の第1土曜の夜に行われる夜の芸術祭です。日本語では直訳で白夜祭などと紹介されていますが、フランス語の nuit blanche には「徹夜をする」という意味もあります。みんなで夜を徹して芸術を楽しもうという趣旨も込められているようです。
現在では欧州の他の国や日本でも行われているようですが、芸術の都パリのものは最も歴史が長く今回で20回目。この夜は近辺のいろいろな美術館や博物館が一晩中無料で開放されます。いつもの美術館や博物館でも、夜中に行くとまた違った感覚があります。
街が美術館に
またさまざまなアーティストが街なかで作品を披露しています。日が暮れてから始まるので光を活用したものが多く見られます。
今年はパリ市庁舎の前に巨大な光る物体が置かれ、夜の暗さと昼のような明るさを対比する作品がありました。それ以外にも教会の壁を使ってプロジェクション・マッピング(立体物への映像投影)をしたり、アパートの壁に映画をうつしたり、工事現場にモダンアートを展示したりと、「夜の暗さ」と「街の空間」を活用した作品をたくさん見ることができました。
芸術家によってはアトリエを開放して見学をさせてくれたりもします。今まで関わったアーティストの数は4000以上だそうです。いかにもパリっぽいイベントが無料で楽しめる貴重な機会です。
写真:パリ市庁舎前のインスタレーション
モンマルトルの収穫祭「Fête des vendanges」
毎年10月の第2水曜から次の日曜にかけて行われるのが、モンマルトルの収穫祭 Fête des vendangesです。モンマルトルの北側(18区)にあるパリ市内唯一の葡萄畑(vignoble)の収穫を祝って始められたもので、戦争やコロナ禍の影響を受けつつも1934年から毎年行われているそうです。
この葡萄畑は今もあり、年間約1800本のワインを生産しています。ワインとしての評価はあまり高くないようですが、その物珍しさから結構な値段で取引されています。
写真:モンマルトルにある葡萄畑
収穫祭ではフランスのあらゆるシャトー(ワイン生産者)がブースを設けてワインやシャンパンの試飲提供をしたり即売をしたりしています。
モンマルトル産のワインの試飲や購入ももちろん可能ですが、上記の通り量が非常に限られているので、今ではイベントのごく一部にすぎません。
ワインに合う食べ物のブースもたくさんあります。山岳地帯のハムやチーズから牡蠣などの海産物、さらにはクラフトビールまで揃っており、フランスの食品見本市の様相を呈しています。
モンマルトルの丘の上でパリを一望しながら飲食ができて、お祭りの雰囲気が楽しめるイベントです。特に今年は10月としては暖かく快晴に恵まれたため、コロナ禍を忘れたかのような大変な賑わいでした。
写真:モンマルトルの収穫祭の様子
秋を最大限に楽しむ
フランスでは9月に入ると目に見えて日が短くなっていき、気温もみるみる下がります。秋に行われるイベントは、コートなしで出かけられる最後のタイミングを最大限楽しもうという人々が集まり、毎年盛り上がります。
機会があれば来年以降ぜひ行ってみてください。
執筆 Takashi