日本人がよく知っているフランス語のひとつ、バカンス。日本では夏休みのイメージが強いものの、Vacances de Noël(クリスマス休暇)やVacances de printemps(春休み)など、まとまった休暇のことはすべてバカンスと言います。
中でも特に夏のバカンスは、フランス人にとっては「取ってもいい」のではなく、むしろ「取らないといけない」ようです。今回はそんなバカンスに対するフランス人の思いを紹介します。
「夏にはバカンスを取らないといけない」
4月のイースターが終わり5月に入ると、フランス人はバカンスの準備を本格的に始めます。6月になるとオフィスはバカンスの話で持ち切りになり、7月には休暇を取る人が出始めます。そのため大きな会議や締切は6月や7月上旬に設定されることが多く、この時期は日本の年度末のように仕事に忙殺されます。
そして7月も後半に入ると会議の数は激減し、メールを送ってもほとんど不在通知が返ってくるという状況になります。8月も同じような低空飛行が続き、9月になるとみんながオフィスに戻ってきて日焼けをネタにバカンスの話をする、ということが毎年繰り返されます。
8月に入るとレストランやお店も遠慮なくシャッターを下ろす国なので、この時期に仕事をしていると日本人の私でも「なぜみんな休んでいるのに自分だけ仕事をしているんだろう…」と、あたかも日本の大晦日やお正月に働いているような気分になってきます。
フランス人の同僚によると、夏は家族で休暇というのが子供の頃から1年のルーティンに入っているので、自分のリフレッシュのためではあるものの「夏にはバカンスを取らないといけない」という義務的な観念が頭のどこかにあるそうです。
あまり長ーくは取れない?
フランスでは年5週間の有給休暇が法律で規定されています。5週間というと長く思えますが、クリスマスと年末年始に1週間、所用のために1週間…と引き算していくと夏休みは3週間ほどが限界。実際にも2~3週間の人が多い印象です。
またフランスの公立学校は8週間の夏休みに加えて、6週間ごとに2週間の休みというサイクルでカリキュラムが組まれています。そのため子供がいる家庭では6週間ごとに2週間、家で子供を世話しないといけないという難題があります。
ですから有休取得の配分を考慮すると、子供がいる方にとっては特に、派手に夏休みを取ることは実は簡単ではないのです。
人気のバカンス先は
バカンスに行って日焼けして秋を迎えることは、それなりに経済的余裕があることを示すため以前は一種のステータスのようなものだったと言います。誰でも気軽に旅行できる現代でもそれは変わらないようで、フランス人の理想の休暇先として海を挙げる人が37%、田舎が25%、山が18%という調査結果もあります。日焼けがポイントかどうかは不明ながら、やはり「バカンスといえば海」のようです。
人気のバカンス先はやはり海
バカンス費用のサポートも
気軽に旅行できるとはいえバカンスにはお金がかかります。そのため企業が福利厚生の一環として cheque-vacances(バカンス小切手・バカンス手当)を出すことも一般的です。これはバカンスの出費の一部を会社が支給するという制度で、法制化もされています。
また収入が少ないとか家庭事情が良くないなどの人たち向けに、バカンスに出るための金銭的サポートをする非営利の団体もあります。無料もしくは格安のパッケージ旅行を提供するところもあり、フランスにはこうした団体が多数存在しています。
日本人の私にとっては、休暇の旅行は金銭的余裕があればこそであって、わざわざサポートに頼ってまでというのはあまり馴染みのない考えのようにも思えます。こういうところからも、フランスには「バカンスは誰もが取る権利をもっているもの」という社会通念があると言えるかもしれません。
バカンスは「年中行事」
フランス人にとってのバカンスは、休暇というよりもむしろ日本でいう「年中行事」に近い感覚でとらえられているように思います。そのおかげで引け目を感じずに夏休みを取れて、リフレッシュして仕事を再開できる。良い「行事」なのかもしれません。
日本でも夏休みを長めに取ることのできる会社が以前よりも増えていますが、今後日本社会でフランスのような夏休みは広がっていくでしょうか。
執筆 Takashi