日本の「Manga」こと漫画が世界中で人気を博していることはよく知られていますが、フランスも例外ではありません。
2021年にはフランスでの Manga の販売部数が、フランス語圏のコミックを指すバンドデシネ(Bande dessinée)を初めて上回りました。
Manga の人気は一時的な流行ではなく、確立されたものと言えるのではないでしょうか。今回はフランスでの漫画人気に関してお伝えします。
バンドデシネとManga
フランスでは昔からバンドデシネ(BD)とよばれるコミックが愛読されてきました。ハードカバーでサイズが大きく、多くは全編フルカラーです。日本でも有名なのはベルギーの「Les Aventures de Tintin(タンタンの冒険)」でしょうか。
また1950年代から続く「Astérix(アステリクス)」という、古代ローマ時代のフランスを舞台にした作品は、現在もBDの売り上げトップで圧倒的な人気を誇っています。
一方の「Manga」は、日本の漫画がそのまま仏訳されているもので、サイズも見た目も日本の単行本漫画と同じです。値段は一冊7~10ユーロと、日本と比較すると高額ですが、それでもBDの半額程度なので若者の人気が上昇しています。
フランスで定番の人気は「ナルト」ですが、最近は日本でも社会現象となった「鬼滅の刃」も高い人気を集めています。
Mangaの売り上げが伸びた理由は
フランスで Manga の販売部数がBDを超えた背景にはいくつかの理由がありますが、フランス政府によるコロナからの再興政策も一因とされています。
文化大国のフランスでは文化・芸術の復興にも力を入れており、パンデミックで閉鎖を余儀なくされていた美術館や劇場等の支援の意味も込めて、18歳の若者約80万人に1人あたり300ユーロの「Pass Culture(文化活動クーポン)」を配布しています。
この文化活動クーポンは、美術館の入場料、舞台や映画のチケット代に使えるほか、文化活動に必要な物品(楽器、書籍、画材など)の購入費用などにも充てることができます。適用範囲が広いため、結局は物的消費を促すだけで文化・芸術の復興には繋がらないのではという議論もありました。
その懸念はある意味当たったとも言える状況で、統計ではクーポンの7〜8割が書籍の購入に費やされ、さらにその7割ほどはMangaとされています。そのため Pass Culture のことを堂々と「Manga Pass」と呼ぶフランスのメディアも出てきました。
いずれにせよ、文化・芸術復興を目指した政府の政策がMangaの売り上げの追い風となったことは間違いないようです。
Manga に端を発する日本への関心
「Manga」が日本発であるという認識は広く共有されており、日本に対する関心の源泉がMangaというフランス人は少なくありません。
例えば、フランスで登録者数の最も多いYouTuberでアニメならびにBD作家としても活躍している Cyprien も、Mangaが日本に興味を持つ引き金になったと言っています。彼のチャンネルには日本をテーマにした動画も数多く公開されており、日本への関心が高いことがうかがえます。
余談かつ私見ですが Cyprien のフランス語は分かりやすく、またフランスの若者が好むスラングなども多用されているので、生きたフランス語を学ぶのに良いのではないかと思います。ぜひ検索してみてください。
フランスの大人をも魅了する
ワインに詳しい私のフランス人の友人は、ワインの世界を忠実に描いた漫画「神の雫」(仏題は「Les gouttes de Dieu」)を読んだことが、ワインに関心を持つきっかけだったと言います。
子供向けだと考えられていたコミックを大人の娯楽にまで高め、さらには外国人をも魅了するManga、その人気はしばらく続きそうです。
執筆 Takashi