フランス人の生活というと、夏の長いバカンスや平日の明るいうちからワイングラスを傾けている様子がよく取り上げられます。そのため「フランス人はあまり働かない」というイメージを持っている方が多いのではないでしょうか。
たしかにフランスでは法律で5週間の有給休暇や週35時間労働が規定されていますが、それと国民が勤勉かどうかという議論は別物です。果たしてフランス人は本当に「あまり働かない」のでしょうか?
フランス人自身ははどう思っている?
フランス人自身、自分たちが勤勉な国民であるという認識はあまりないように思います。予定通りにことが進まないのはフランスではよくあることですが、それをフランス人の友人に話すとほぼ確実に「C’est la vie !(人生そんなもんだよ)」とか「On est en France !(まぁフランスだからそんなもんだよ)」という言葉が返ってきます。
また自分自身はよく働いているとは思いつつも、世界の中ではフランス人はあまり働かないとみられていることを甘受している人が、私の周りには多い気がします。さらには、あまり勤勉ではないという国民性はフランス人のひとつの個性であり、そう悪いことではないと思っているようにさえ見受けられます。
しかし、10月にマクロン大統領がフランス人の労働時間の短さと生産性の低さを憂慮する発言をした際は物議を醸し、討論番組などでも少し盛り上がりを見せました。実はフランス人としても「勤勉かどうか」は気になる議題なのかもしれません。
データでみると…
はたして本当にフランス人は働かないのでしょうか。2020年のOECDのデータによると、フランス人の平均労働時間は年間1402時間。日本の1598時間やOECD加盟国平均の1687時間よりは短いですが、ドイツ、イギリス、スペイン、イタリア、スイス、スウェーデンといった他の西欧諸国よりも長い時間働いています。
また労働生産性に関しては、欧州諸国はもとより日本よりも高い結果となっています。これは仕事の進め方にもよるため単純比較はできませんが(たとえば成果は同じでもプロセスを丁寧に踏むほど仕事量は増える)、少なくともデータで見る限り、フランス人はあまり働かないという議論には疑問符が付きます。
私の周りでは…
私の周りにいるフランス人の働き方を見ていると、たしかにカフェや昼食には確実に時間を取る人が多いものの、デスクについたときの集中力は非常に高いように思います。
同僚のフランス人に聞いたところ「人間が集中して仕事できるのは一日せいぜい4~5時間くらい。それ以上働いても結果は同じだから、残りの時間はゆっくり同僚とおしゃべりでもしながらリラックスして仕事をすればいい」という認識でした。
管理職はよく働く
自分で時間配分を決めやすい仕事であればそれでもいいかもしれませんが、管理職になると話が違います。私の会社では管理職になっても自分で案件を回す人が多く、それに加えて部下の案件を見たり課内マネジメントをしたりと、仕事量は非常に多い印象があります。実際にメールの返信が夜中に来ていたり、頼みごとをすると「週末にやっとくね」と言うような上司も多いです。
なかにはバカンス中でも重要なメールには返信が来たり、子供の送迎などでいったん18時にオフィスを出ても、また夕食後にパソコンを開いて深夜まで仕事をするような人もいます。少なくとも私の周りのフランス人にはよく働く人が多いようです。
メリハリをつけて働いている
ただ仕事に対する捉え方は、日本人よりも淡泊な印象があります。仕事はあくまで生活に必要なお金を稼ぐためのもので、生活の一部ではあるもののメインではない、という考えです。
そのためフランスでは、発生した仕事が本当に自分の時間を割くべき内容なのかをまず真剣に検討します。上司に言われたことでも、盲目的に取り組むということはあまり多くありません。
本当にするべき仕事を選別したうえで集中して取り組む。こういう姿勢があるからこそ短時間の労働で結果を出せて、明るいうちから飲みに行けるのかもしれません。
集中して働き、しっかり休む
考えてみれば、国民がよく働かない国が、主要先進国として世界で大きな影響力を持ち続けられるわけがありません。
フランスで働いていてよく言われるのが、仕事のパフォーマンスを上げるために休む時はきっちり休むべきだということ。働くときは集中して働き、それ以外の時は充電する。言うのは簡単ですが、実践に関してはフランス人の同僚から学ばせてもらっているような気がします。
執筆 Takashi