フランスで「若者のワイン離れ」…その背景は?

2021.05.19

ワイン フランス グラス
フランスといえばワイン
。そういうイメージを持つ方も多いのではないでしょうか? 最近はEUとの経済連携協定で関税がかからなくなったおかげで、フランスのワインは日本ではさらに身近になりました。ではフランスではどうなのでしょう。今回は最近のパリの状況から垣間見える、フランス人にとってのワイン事情をご紹介します。

 

フランス人のブドウ=日本人のお米?

ワインはブドウ果汁を発酵させたアルコール飲料です。水やホップを加える日本酒やビールと違い、原料はブドウの果汁のみ。ブドウのクオリティがワインのクオリティに直結するため、ワインを語る時はブドウの産地や品種の話題を避けては通れません。

産地は「ボルドー」や「ロワール」など観光地として有名な地域も多いため、日本人にも比較的なじみ深いかもしれません。日本でよく聞く「ボジョレー」も産地の名前です。一方、「シャルドネ」や「ピノ・ノワール」はブドウの品種をさします。他の作物と同様、ブドウも品種ごとに適した気候風土があるため、産地と品種の組み合わせはある程度限られてきます。

フランス人にとってのブドウは、日本人にとってのお米みたいなものと考えると分かりやすいかもしれません。「ボルドーのカベルネ・ソービニョン」や「アルザスのリースリング」は、「新潟産コシヒカリ」や「秋田産あきたこまち」と言っているようなもの…そう考えれば、横文字にあふれたワインのラベルも身近に感じられるのではないでしょうか。

 

若者のワイン離れ

日本人のお米のように、ワインはフランス人の生活に根付いています。パリに本部を置く政府間機関「国際ぶどう・ぶどう酒機構(L’organisation internationale de la vigne et du vin / OIV)」の統計によると、国民一人当たりの年間ワイン消費量でフランスは常に世界上位に位置しています。

しかし現在の一人あたりの消費量は、70年代と比較すると半分以下。その背景には1981年以降に生まれたミレニアル世代と呼ばれる若者の「ワイン離れ」があると言われています。産地や生産者に詳しいワイン好きの若者ももちろんいますが、ワイン専門店を覗くと客層は確かに中高年の方が多い印象があります。

この若者のワイン離れの主な理由には、近年の健康志向にともなうアルコール自体の消費量減少、ならびに他のアルコール飲料(クラフトビール、スピリッツ、カクテルなど)への嗜好の移行などが挙げられています。実際パリにもカクテルバーがいたるところにでき、スーパーのビールコーナーには毎週のようにクラフトビールの新商品が入荷されています。

私自身、仕事帰りに一杯飲む時や週末にピクニックをする時など「まずはビールで乾杯」が増えたような気がします。また、個人的な意見ではありますが「ワインは味と値段がリンクするので、安いワインよりはビールやシードルを選ぶ」と主張する友人もいます。この友人にとって、ワインはそれなりに値の張るものを選ぶことになるため、特別な機会に飲む物となっているようです。

持ち寄りのホームパーティの際も、ワインやシャンパンを持ってくる人は減っています。中には「ワインに詳しい参加者がいると、品定めされそうで持って行きにくい」と言う人もいます。またアジア料理やアフリカ料理なども浸透してきていることから、必ずしもワインが食事の際の最良の飲み物とは限らなくなってきているという事情もあるようです。

 

ワイン文化は「次の段階」へ?

こうした「ワイン離れ」が一時的なものなのか、それとも衰退の一途をたどるのかは分かりませんが、新しいものを積極的に取り入れながらも旧きはしっかり守るフランス人のこと、自分たちのアイデンティティともいえるワインを簡単に見捨てたりはしないでしょう

ワインの消費量減少の一方で、醸造元を訪ねて試飲したりワイン農家に滞在したりするといった「ワインツーリズム」は流行の兆しを見せています。フランスのワイン文化は、ワインを日常的な飲み物として消費するところからさらに一歩進んで、「ワインについて楽しく学ぶ」「飲むという経験を楽しむ」という次の段階に達しつつあるのかもしれません。

執筆 Takashi

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