2025年8月8日(金)、南西フランスに位置し、先史時代の壁画で世界遺産の「ラスコー洞窟」(grotte de Lascaux)、そのレプリカ、ラスコー4国際洞窟壁画センター(Lascaux IV)にはこの夏も大量の観光客が押し寄せていますが、自然に囲まれた敷地内及び周辺にはごみ箱がありません。ごみは訪問客自身で持ち帰り、分別してもらう、という目的で撤去されましたが、果たしてよかったのでしょうか?
家では分別するごみ、観光地に行くとなぜやらない?
ラスコーIVをはじめ、ドルドーニュ地方(Dordogne)のいくつかの観光地を運営するセミツール(Semitour)社は、今年の1月に敷地内のごみ箱をすべて撤去しました。
同社は、公表されているいくつかの調査結果によると「公共の場よりも、家のほうがごみを分別する」ことが明らかになっていることから、訪問者にはごみを家に持ち帰ってもらうことにしました。
ローラン・コーベル(Laurent Corbel)部長代理によると、この半年間で意外にも「ごみ箱があった時の方が、あちこちにごみを捨てる不法投棄が多かった」という結果がでています。
ビーチや登山道などがヒント
そもそも「ごみ箱のない観光地」はすでにフランスのあちこちに存在していました。
海岸やトレッキングルート、自然の遊歩道や登山道などがその例です。
コーベル氏は、自然に囲まれたラスコーIVを、持続可能な観光地として維持するために、訪問者に「自分のごみを責任もって処理させる」という同様の措置をとることにしました。
始めた当初は、訪問者にどう受け止められるかは「賭け」だったと話す同氏ですが、非常にうまくいっていると結果に満足しています。
訪問者の反応は「おおむね良好」だが
確かにごみ箱がないことは、全体的には前向きにうけとめられているようです。
ごみを持ち帰ることを「特に不便を感じない」というだけでなく、中には、スウェーデンから来たという夫婦のようにこの方針を「歓迎」する人もいます。
洞窟の近くでピクニックをしている、パリ近郊から来たアニエス(Agnès)さんは、ごみ箱がないことに驚きを隠せない様子でしたが、ごみをどうするかの質問には「持ち帰りますよ。何の問題もありません」と答えています。ただし、赤ちゃんのおむつやランチの残りなど、「匂いがするものを車に持ち込むのはちょっと困るけど、あとは問題ない」と付け加えています。
一部は不満をあらわ
訪問者の中には、不満をあらわにする人もいます。
やはり昼食を持ち込んでピクニックしていたパリ在住のマリオン(Marion)さんは「一日中ごみをもって散歩するのは不便」、「借りたアパートでのごみ捨てルールがわからない」と言い訳したうえで、センター内のカフェ・ラスコーのテラスにあるごみ箱に捨てていました。
ごみ箱がなくても「ごみを捨てるのをやめない」観光客
館内のレストランの運営責任者のファビアン・デルマール(Fabien Delmar)氏は、軽食をテイクアウトで販売するカフェやレストランのテラスにごみ箱を増設しました。
同氏は、「(ラスコーIVの)運営会社はごみ箱を撤去したかもしれませんが、だからといって、人々はごみを捨てるのをやめたわけではない」と断言しています。
館内カフェ、レストランに負担増
敷地内に立てられた看板の「自然の中にはごみ箱があるのは不自然ですよね?各自お持ち帰りください」というメッセージに納得した訪問者も、食事が絡むとそうもいかないようです。
大型バスで続々と到着する観光客が敷地内でピクニックすると、最終的に館内レストランのごみ箱はあふれかえることになります。なかにはトイレにごみ袋ごと捨てる人もいます。
そしてその処理をする負担は、レストランの運営会社に重くのしかかってきます。
レストランは、自らの顧客のごみを分別し処理するだけでなく、なにも買わないのにごみだけ捨てにくる訪問者のごみまで処理しなくてはなりません。
レストランのごみ箱はすぐ一杯になり、1日2回も袋を取り換えなければなりません。
しかもこの地方のごみ処理料金は、重量課金制のため費用は倍にふくらんでいます。
デルマール氏は、もちろん多くの人がルールを守ってくれているが「全員ではない」こと、そして「ごみが捨てられない場所」という意識が定着するまで、レストランは負担増を強いられると嘆いています。
運営会社は「楽観的」、ごみ箱を観光名所から続々と撤去
一方、セミトゥール社は「99%の人がルールを守っている」と楽観的な見解を示し、自社が運営するドルドーニュ地方の他の観光名所、カドゥアン修道院(abbaye de Cadouin)、グラン・ロック洞窟(grotte du Grand Roc)、ビロン城(château de Biron)に置かれていた30あまりのごみ箱も撤去しました。
これにより、同社が管理する場所として唯一ごみ箱が残されたのは、道路わきに点在するピクニックエリアのみとなりました。ここでは、利用者がごみを分別して捨てることが可能です。
ちなみに、筆者の住むアパートの前の公共のごみ箱は、大きなごみ袋に入った家庭ごみで常にあふれかえっています。
執筆:マダム・カトウ