2025年4月25日(火)、トランプ大統領がアメリカの名門大学への助成金を凍結すると発表したことを受け、マクロン大統領は世界中の研究者に向け「フランス」や「ヨーロッパ」を選んでほしいというメッセージを発信しました。また、優秀な人材確保のためにアメリカからの科学研究者に「難民」ビザを発行する法案も提出されています。すでに南仏の大学では、アメリカからの人材募集をかけています。
フランス、研究は「果てしなく続く地平線のよう」に制限はない
マクロン大統領は「ここフランスでは、イノベーションは文化の一つで、科学は地平線と同じで制限はない」とSNS「X」に投稿しました。
大統領のメッセージと並行して、フランス政府は『科学をするならフランスへ 』(”Choose France for Science“)と名付けたキャンペーンを開始、ホームページに海外の研究者らがフランスで就労もしくは活動するための準備に必要な情報を掲載しました。
トランプ政権、デモ禁止など「高等教育への介入」「科学への不信」
昨年、米名門校コロンビア大学をはじめとするアメリカ各地の大学キャンパスで、イスラエルによるパレスチナ自治区への侵攻を非難する学生デモが発生しています。これをトランプ大統領は「反ユダヤ主義」と非難し、大学側に「言論統制」ともいえる政府の方針を順守するよう要求し、受け入れない大学への助成金を停止すると発表しました。
これに対し、コロンビア大は政府のガイドラインの受け入れ方針を発表していますが、名門私立ハーバード大学は断固として受け入れないと発表するなど、多くの大学で混乱が続いています。
バイオ医療など研究予算大幅カット、大学側はリストラや採用停止
トランプ政権が推進する政府支出カットによる歳出削減の一環として、医療、科学研究予算の大幅カットを発表し、バイオ医療の研究で最先端を行くジョン・ホプキンス大学は、すでに2000人のリストラを決定しています。
名門校スタンフォードやハーバード大学も、新規採用の見送りを決めています。
こういった高等教育の場への「言論統制」ともいえる政府の介入、科学研究費の大幅減は優秀な人材の海外への流出を促しています。
ある調査では、優秀な研究者や科学者の75%が「海外への移住を考えている」との結果がでています。
アメリカからの研究者に「科学難民」のビザ発行か?
フランスに優秀な頭脳を呼び寄せるために、前大統領で現在議員となっているフランソワ・オランド(François Hollande)氏は、アメリカ人研究者向けに「科学難民ビザ」を新たに創設するという法案を提出しました。
アメリカの名門校や研究機関は、潤沢な研究資金と魅力的な報酬で、世界中のトップクラスの科学研究者や技術者が競って集まる場でした。
一方、資金力で見劣りするフランスの大学では、優秀なフランス人研究者の流出を阻止することが、長年大きな課題の一つになっています。
トランプ政権によるアメリカからの「頭脳流出」は、フランスや欧州にとっては思いもかけなかったチャンスと言えます。アメリカ人研究者はもとより、アメリカでの将来に不安を持つフランスや海外からの研究者の一部も、アメリカ以外の行き場を探し始めています。
南仏大学の研究職募集にアメリカから300人が応募
定員8万人(うち海外から12000人)と、フランスで最も学生数の多いエクス=マルセイユ大学(Aix-Marseille Université)は、今年3月上旬、独自で「科学研究が安心してできる場所」(”Safe place for science“)という科学研究者募集キャンペーンを行いました。
研究者一人当たり、3年間で60万(約9,700万円/1ユーロ=162円)~80万ユーロ(約1億3000万円)の予算を組んでいます。
同大学によると、298人の研究者が応募、応募資格を満たした242人のうち135人がアメリカ国籍または在住者、45人がフランスとアメリカの二重国籍でした。
応募者のプロフィールは、男女半々で構成され、経験豊富かつ多様な国籍の人で構成されています。現職もジョン・ホプキンス大学、NASA、ペンシルバニア大学、イエール大学、スタンフォード大学など、世界的に著名な研究機関に所属している人が名を連ねています。
採用面接はビデオカンファレンスなどを活用して行われ、最終選考は23日に行われています。
提出された応募書類は77件が人文科学、69件が生命科学の研究者によるものでした。エクス=マルセイユ大学は最終的に20人ほどを採用する予定です。
執筆:マダム・カトウ