2月11日(金)、LVMHグループ最大の子会社でフランスを代表するラグジュアリーブランド、ルイヴィトン(Louis Vuitton)社のフランス国内に18ある工場のうち5つが昨日10日よりストライキに入っています。コロナ禍にもかかわらず、昨年大幅に業績を伸ばした同社は、革職人の賃上げと引き換えに労働時間の再編を目指していますが、組合側はこれに猛反対しています。
ルイヴィトン、5年ぶりのスト
「フォーミダブル(素晴らしい)な職業、ミゼラブル(惨め)な給料」のスローガンを掲げ、パリ郊外のアニエール(Asnières)工場で主に特注品の製作を手がける革職人たちが声を張り上げています。
1854年に創設以来続く同社の歴史的第一号のアトリエで働く600人のうち、約130人がストライキに参加しています。サラス(Sarras)工場、イスダン(Issoudun)工場、その他2つの工場も追従してストに突入しました。
フランスの伝統工芸の継承に誇りを持つ同社の職人達のストライキは珍しく、今回実に5年ぶりとなります。
15年の熟練職人の時給、わずか14ユーロ
ストを呼びかけた組合の一つCGT(Confédération générale du travail)によると、今回のストの目的は「賃上げ要求」と「工場の労働時間再編への反対」という2つです。
組合側は、会社側のベースアップ額が低すぎ、勤続15年の熟練職人の時給が税引き前の段階で14ユーロ(約1850円/1ユーロ=約132円)にしか満たないと訴えています。
ちなみにフランスの最低賃金は10.57ユーロ(約1395円)です。
親会社LVMH、2021年の業績発表「過去最高益」で「火に油」
ルイヴィトンの親会社であるLVMHグループは、先月末に行った2021年度の業績発表で、売上640億ユーロ(約8兆4500億円)(前年比20%増)利益120億ユーロ(約1兆5860億円)(55%増)といずれも過去最高の業績を残したとを明らかにしました。
この好業績の発表は、グループの稼ぎ頭であるルイヴィトン社の職人達の怒りをさらに増幅させてしまいました。
会社側は「ワークライフバランス」「賃上げ」を主張
組合の要求に対しLVMHグループは、会社側は「社員一人あたり平均で、月約150ユーロ(約19,800円)の賃上げと、週35時間(フランスの労働法で規定された労働時間)から33時間への労働時間の短縮もオファーしている」と主張しています。
労働時間短縮の動機について「社員のワークライフバランスを重んじているから」と説明しています。
さらに、社員の報酬に関して同社は「厚遇する方針」で、現在同社の社員5,000人は「一人あたり18ヶ月分の給与が支給されている」とコメントしています。
会社側、夜間早朝の手当の削減が狙いか
労働条件が改善されていると主張する会社側のオファーに対し、組合側は「月給を150ユーロ上げた、つまり時給が割増になる代わりに、労働時間帯に『日中のみ』という縛りがなくなり、夜間や早朝でも同じ時給で働かされることになる」と、残業手当が削減され、労働条件が改悪されると主張しています。
ちなみに、フランスの残業規定は業種別労働協定により若干異なりますが、革職人業界の場合残業手当は最低でも、ベースとなる「日中の時給」の10%増しと定められています。中小零細企業などで、会社と組合の間で結ばれる企業内の労働協定がない場合、最初の8時間は25%、それ以上は50%の時給が上乗せされる決まりとなっています。
また会社の規模にかかわらず、残業の上限は年間220時間と決められています。
組合、労働条件「なし崩し」の改悪を危惧
アニエール工場のもう一つの組合CFDT(Confédération française démocratique du travail)代表のミレーユ・ボルデ(Mireille Bordet)氏は「会社側は賃上げだと主張していますが、労働時間の再編と引き換えです。つまり会社側の条件をのまなければ、賃上げはありません」と交渉が難航してストに突入した理由を説明しています。
ボルデ氏はまた「会社側の言うワークライフバランスですが、35時間から33時間になっても「代休」が増えるだけで、1日の就労時間が長くなって遅くまで働くことになる」とこちらも改悪されると危惧しています。
組合CGT皮革製造業・テキスタイル業界代表のトマ・ヴァシュロン(Thomas Vacheron)氏も「残業手当削減が会社側の本当の狙いだ」としています。
執筆:マダム・カトウ