フランスの冬の風物詩・クリスマスの飾り「Crèche(クレッシュ)」

2025.11.25

豪華なパリのノートルダム大聖堂のクレッシュ。中央の中段辺りにイエスが置かれる飼い葉桶がある

早いもので、今年もまたクリスマスシーズンが到来します。フランスのクリスマスを語るうえで欠かせない存在が、キリスト降誕の場面を再現した「Crèche(クレッシュ)」です。フランスにおけるクレッシュは単なる宗教的装飾の枠を超え、地域のアイデンティティや手工芸文化、家庭の年中行事と深く結びついた独自の伝統を形成しています。今回は、フランスにおけるクレッシュの歴史的背景、地域習慣、様々なスタイルのクレッシュなどをご紹介します。

 

クレッシュとは

クレッシュ(Crèche)は、ひとことで言うとキリスト降誕の場面を人形で再現した、いわゆる「模型」です。クリスマスの象徴的な飾りとして、フランスをはじめ特にカトリックのヨーロッパ各国でよく見られます。

一般的なクレッシュは、イエス・キリストの母マリア、父のヨセフ、飼い葉桶に寝かされた生まれたばかりのイエスを中心に、東方の三博士・羊飼い・天使・動物たちが取り囲む形で構成されます。これは新約聖書の「ルカによる福音書」および「マタイによる福音書」に描かれる誕生物語を再現しています。

シーズンになると、フランスの教会では必ずクレッシュが置かれます。私の知り合いの家でもクレッシュを置いていて、子どもたちが人形や風景を手作りするなど、クリスマスツリーの飾りつけと同じように家族で共同作業を楽しんでいます。

定番の登場人物だけではなく村人や職人の人形を多数配置する地方もあり、地域社会に密着しながら独自のスタイルが形成されています。

中には現代的なあっさりとしたクレッシュも

クレッシュの起源

クレッシュの源流は一説には13世紀イタリアといわれ、聖フランチェスコが字を読めない庶民にキリスト教の教えを伝えるため、馬小屋と動物の模型を作ったことに遡るそうです。

フランスでは、17世紀頃から教会でのクレッシュ展示が一般化していったとのこと。ただ18世紀末のフランス革命期には、教会の権力を抑制するため宗教的儀式が制限され、教会での展示ができなくなりました。その代わり人々は自宅で家庭用のクレッシュを作り始め、宗教的文化であったクレッシュは民衆的・家庭的な習慣としても発展していきました。

革命政府による宗教弾圧が宗教的文化をより民衆的に昇華させたというのは、逆説的ながら非常に興味深いところです。

 

こだわりの人形、サントン

プロヴァンス地方では特にクレッシュ文化が発達し、「サントン(Santons)」と呼ばれる小さな素焼き人形を作ることが広まりました。サントンには聖家族や東方の三博士だけでなく農夫・パン屋・大工・漁師など、地域に密着した人物が多数含まれています。これらは地域社会の縮図や共同体アイデンティティを表現するものとして、特別な意味を持つようになっています。

家族経営の工房を中心としたサントン制作が伝統産業となっている地方もあります。それらの地方では、クリスマスシーズンにサントン専門の市場(Foire aux Santons)が開かれます。専門市場ではないフランス各地のマルシェ・ド・ノエル(クリスマスマーケット)でも、サントンを扱っていることがあります。

サントン文化の中心地であるマルセイユのサントン市は特に有名で、毎年数万人が訪れるそうです。1803年発祥で、プロヴァンス地方で最古といわれています。

 

クレッシュの飾り方

一般的にクレッシュは、クリスマスツリーと同様に12月初旬頃に準備されます。赤子のイエスは12月24日の深夜まで置かれず、25日に後付けされます。

24日までは生まれていないので当然といえば当然ながら、クリスマスまでのカウントダウンを彩るアドベントカレンダーのように、キリストの誕生を象徴的に待ち望むという宗教的意味合いも込められているようです。(アドベントカレンダーの記事はこちら

12月24日と25日のクレッシュ左はクリスマスイブ以前のもので飼い葉桶には聖書が置かれている。一方クリスマス以後の右では、赤子のイエス像が置かれている

宗教的要素を越えたフランス文化

現代のフランスでは、信仰に関わらずクレッシュを楽しむ人々が増えているそうです。またサントンはそれぞれ表情や彩色が異なる一点物であることから、芸術品として収集するコレクターもいるそうです。これはクレッシュが宗教的であると同時に、フランスの地方文化・家族行事・手工芸の継承という複合的意義を持つからかもしれません。

地方の都市部などでは、広場や市庁舎、ショーウィンドウなどに大型のクレッシュが展示されることもあります。素朴な色合いの温かみのある風景は、寒々しい冬の街並みに温かな魅力を添えてくれるような気がします。

一方で公共空間における展示には、政教分離原則の観点から議論があるのも事実です。しかし多くは宗教というより地域文化・伝統行事として展示され、クレッシュはフランス文化として支持されているとも言えます。

パリの有名観光地でもあるサクレクール寺院のクレッシュは、他の民族もキリスト誕生を見守っている。パリの多様性の反映かもしれない

 

冬の風物詩クレッシュ

イタリアやスペインなど他のキリスト教国でも広く飾られているクレッシュ。フランスのクレッシュは宗教的場面の再現だけでなく、地域社会や人々の日常生活をも表現し、フランスの冬の風物詩として広く浸透していると言えます。宗教・文化・民俗が融合した独特のクリスマス文化として、フランスのクレッシュは今後も継承されていくことでしょう。

執筆 Takashi

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