みなさんにとって夏の始まりを告げるものは何でしょう。梅雨明けのニュースを聞いたり、学校の夏休みが始まったり、セミの声が聞こえ始めたり…いろいろあると思います。
ここフランスで夏の始まりを告げる風物詩は、夏至の日に全国的に開催される Fête de la musique(音楽祭)です。今回はその Fête de la musique についてご紹介します。
街中が音楽で満たされる一日
日没が夜10時を過ぎる夏至の日のフランスは、昼間から夜遅くまで街中が音楽で満たされます。いたるところでいろいろな人が歌い演奏し、普段はBGMとは無縁のエピスリー(食料品店)や不動産屋なども店の前にマイクを置いてスタッフが歌っています。
この Fête de la musique は、1982年に当時の文化大臣の声かけで始まりました。それ以来フランスでは都市部をメインに全国的に開催される恒例行事になり、コロナ禍の2020年、21年にも行われました。最近では近隣諸国でも実施されているようです。
パリなどの大都市では、アマチュアバンドの路上コンサートに交じって有名なピアニストや歌手の演奏に出会えることも。博物館では音楽を聞きながらいつもと違う雰囲気で展示品を鑑賞できたり、普段は門戸の閉ざされている省庁も一般公開されてコンサートが行われたりしています。
面白いのはジャンルもレベルも関係ないということ。人気ポップ歌手の無料コンサートから、見たこともない楽器が出てくる民族音楽、何を表現しているのかいまいち分からない前衛的なものまでなんでもありです。
首相も市民と立ち話
左:ヨーロッパの景色での和太鼓のパフォーマンス。
中:首相府のコンサート訪問客と気さくに話すカステックス首相(中央右)
右:路上クラブと化した通り
この日にパリの街をぶらついていて印象に残ったものをご紹介します。まずは和太鼓愛好家のグループ。ルーブル宮殿裏にあるパリ1区の区役所前広場という、すごくヨーロッパの雰囲気が漂う場所に和太鼓の音色が響き、なんともシュールな光景でした。
5区にあるローマ時代の闘技場跡では、ラジオ局の主催でプロのオーケストラが演奏していました。フランスではローマ時代の遺跡や中世のお城で野外オペラが開催されることも多いものの、日本人の私には新鮮に映りました。
また今年は首相府の中庭が一般公開され、ステージが設置されて一般人がいろいろな音楽を演奏していました。首相と文化大臣も参加して市民と気さくに立ち話をしていて、あらゆる人が平等に音楽を楽しもうというコンセプトが徹底されていることが分かる瞬間でした。
日没後まで大音量でも…
私の住む通りでは、普段はあまり目立たない小さなハンバーガー屋さんがプロ仕様の機材をそろえ、DJを雇って路上クラブを開催していました。日没後まで大音量で音楽が流れていますが、みんなで音楽を楽しみ夏の到来を喜ぶこの日は近所の人も大目に見ているようで、文句を言う人はいません。
もともとフランスは駅や地下鉄車内などで大道芸人が音楽を奏でており、プロアマ問わず音楽に対する許容心が広いというお国柄もあるのかもしれません。
夏の到来を感じたあとは
夏至の日の Fête de la musique で夏の到来を感じ、7月14日の革命記念日あたりにはバカンスの始まりを迎えるフランス。この記事を書いている7月後半には休みに入る人やお店も増え始め、パリはだんだん静かになってきています。8月も末になれば秋の気配が感じられるフランスの短い夏は、いま盛りを迎えようとしています。
執筆:Takashi