2023年6月20日(火)、フランス政府は健康保険の膨大な赤字削減の一環として、医薬品の個人負担増を検討しています。特に現在自己負担がゼロかほとんどない医薬品への負担増を求める案が浮上しています。
個人負担増、患者にもコスト意識を
ル・メール経済相(Bruno Le Maire)は、「タダと思うと人は無責任になるものだ」との観点から、国民に医薬品が財政にどれだけ負担になっているかの理解を求めたいと、昨日経済省で行われた会議の冒頭で述べました。
今回の大臣の発言は決定事項の発表ではなく、医療費削減の一案として医薬品の個人負担増も検討されていることがほのめかされているにすぎませんが、実際どうなるかは来年の社会保障予算発表で明らかになるでしょう。
社会保障費用、フランス財政の50%
健康保険、家族手当、老齢年金等の社会保険や公的扶助など、社会保障(Sécurité sociale)への歳出は、フランス財政の実に50%を占めており、財政赤字削減に社会保障費用の削減が必須であることは間違いありません。
医薬品の健康保険負担額は、インフレによる物価上昇による既存の医薬品の価格高騰と、イノベーションによる高額な新薬の登場で増加の一途をたどっています。
そのため経済省は、医薬品の健康保険負担の厳しいコントロールを政府に要請しています。
医薬品の定額自己負担、たったの0.5ユーロ
2008年、フランスでは医薬品の健康保険負担の対象にならない、定額自己負担が導入されました。
つまり健康保険で以前なら100%負担される医薬品でも、1箱(1本)につき保険適用外額0.5ユーロ(約76円/1ユーロ=約155円)は自己負担になり返金されません。(注)
この定額自己負担額が「低すぎる」ことも問題になっています。この額を倍の1ユーロ(約155円)にすることが検討されています。
もしこの案が採用されても、健康保険の利用者にはほとんど気づかれない可能性が大きいでしょう。
フランスでは医薬品の清算は健康保険カードを利用して行い、薬局には自己負担額を現金やクレジットカードで支払います。
医薬品の購入情報は電子化され健康保険局に直接届くわけですが、定額自己負担額は医療費返金の時に返金額から差し引き清算されるため、明細をよく見ないと支払ったことにも気づかないでしょう。
定額負担増、5億ユーロの増収が見込めるが…
定額自己負担は医薬品だけでなく、整体、訪問看護(1回0.5ユーロ)といった診療補助や医療搬送(2ユーロ/約310円)にも適用されます。
ただし、妊婦や子供、入院患者には適用しないという例外が存在し、負担額の上限は年間50ユーロ(約7,750円)に定められています。
こういった定額自己負担額および上限を増額することにより、年5億ユーロ(約774億円)から6億ユーロ(929億円)の増収が見込まれます。
歯科治療費の自己負担、10月から30%増
自己負担額増は定額負担だけでなく、治療費にも及んでいます。
歯科治療費に関しては、すでに今年の10月から30〜40%の増額が決まっています。これだけで年5億ユーロの健康保険負担額の減少が見込めます。
これに対し野党共和党は「突然の大幅な自己負担増は、フランス国民が治療をあきらめる要因になり得る」と懸念を表明しています。
政府、新薬へのアクセスを容易に、薬品業界と交渉中
経済相は、年初に薬品業界の専門家たちを集め、難病の治療薬など新薬に多くの人がアクセスできるよう価格を抑える仕組みの検討を依頼しました。
フランス政府はコロナ禍での教訓から、医薬品、特に新薬の生産ラインをフランス国内に戻すことを奨励しており、支援する構えを見せています。
執筆:マダム・カトウ
注)フランスの医療費はまず自分で支払い、後日返金される仕組み。医薬品に関しては、現在薬局で健康保険カード(Carte Vitale)を提出すれば、健康保険負担額との差額、自己負担額のみ支払い。任意共済保険加入者は、自己負担額の前払いを免除される契約もある。