4月10日(日)に第1回投票を終え、24日(日)に決選投票を控えるフランス大統領選の争点のひとつは、環境政策です。マクロン現大統領と、マリーヌ・ル・ペン(Marine Le Pen)氏の公約では、どのように考えられているのでしょうか。
フランスの環境政策
気候変動に関する政府間パネル(仏:Groupe d’experts intergouvernemental sur l’évolution du climat(GIEC)、英Intergovernmental Panel on Climate Change(IPCC))による2022年4月の報告書では、遅くとも2025年までに温室効果ガスが削減し始めなければ「生活可能な」世界を保つ、すなわち気温上昇を1.5度に留めることが難しいとしています。
マクロン氏が更新したSNBC
フランスは2015年、「国家低炭素戦略(Stratégie nationale bas carbone,SNBC)によって、二酸化炭素排出量の削減目標を達成するための手段を部門別に発表しました。これによると、1990年比で2030年に40%減、2050年に75%減を目標としています。
気温上昇を1.5度に留めるという目標は、第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において採択されたパリ協定(l’Accord Paris)にもとづくものです。
この戦略を発表したのはフランソワ・オランド(François Hollande)氏で、マクロン氏の在任中に更新されました。
いずれにしても目標達成は厳しいか
この度、マクロン氏とル・ペン氏も、公約上では環境政策に触れていますが、いずれにしても二酸化炭素の削減目標を達成するのは難しいと考えられています。
Franceinfoの分析では、第1回投票に出馬した候補者のなかで、マクロン氏の公約はパリ協定の目標達成から「遠い」、ル・ペン氏は「とても遠い、あるいは正反対」と評価されています。
ル・ペン氏の公約
ル・ペン氏は、前出のIPCC、欧州グリーン・ディール(※1)、緑の気候基金(※2)そしてパリ協定に対して批判的な姿勢をとっていることが知られています。
パリ協定からの脱退は考えていない一方で、「今後決定するであろう方法によって」協定を実現するとしており、協定を尊重する態度は見せていません。
フランスのSNBCについても「社会主義的な法律」と評価しているほか、エネルギー転換にも消極的で、とくに風力発電と太陽光発電の拡大に反対しています。
マクロン氏の公約
マクロン氏は、国際的な枠組みについては賛同している一方、自身が更新したSNBCに沿うような環境政策を将来の首相に託すとしつつ、それ以上の戦略を立ててはいないようです。
第1回選挙後のル・ペン氏との討論では「フランスを、第一の脱温室効果ガス・石油・炭素国にする」と宣言しましたが、これまでの在任中にはどちらかというと経済成長を優先させる政策をとってきたことから、再任後への期待はできないという見方があるようです。
SNBCからほど遠い両氏の公約
Franceinfoによる分析では、両者とも、公約上は環境政策にそれほど力を入れていないと評価されています。
例えば以下の措置はほとんど言及されていないといいます。
-交通量の節制に向けた取り組みや、排出量の比較的少ない交通手段を使用させるための価格操作
-建物のエネルギー消費削減のための取り組み
-食肉の消費削減、窒素酸化物やメタンの排出削減など、「環境に配慮した農業(agroécologie)」に向けた努力
-森林の保護
-エネルギー需要の削減のための具体策の提示
課題は山積み
環境政策は、経済、科学・研究、教育と啓発、労働などあらゆる分野で取り組む必要があり、両候補者にとって避けては通れないものでしょう。選挙での発言のみならず、当選後の行動も注意して見ていきたいです。
執筆あお
※1 欧州グリーン・ディール(仏:Green Deal européen、英:A European Green Deal)は、欧州委員会による、2050年までの経済戦略で、温室効果ガスの実質排出ゼロと経済成長の両立を目指す枠組みです。
※2 緑の気候基金(仏:Fonds vert pour le climat、英:Green Climate Fund, GCF)は国連の一機関として、気候変動に関する国際連合枠組条約に基づく資金供与の制度の運営を委託された基金です。開発途上国の温室効果ガス削減(緩和)と気候変動の影響への対処(適応)の支援を目標としています。
参照
外務省 気候変動
外務省 緑の気候基金
JETRO 欧州グリーン・ディールの概要と循環型プラスチック戦略にかかわるEUおよび加盟国のルール形成と企業の取り組み動向