4月22日(金)、フランス大統領選挙はいよいよ明後日24日(日)決選投票が行われます。先日の20日(水)にマクロン、ルペン両候補のテレビ討論が行われ、直後の世論調査で現職マクロン候補がリードを維持しています。1500万人が視聴したテレビ討論で、マクロン氏は「傲慢」「上から目線」と批判され、「前回より健闘」と言われたルペン氏は「公約の信憑性」や政府を形成する「能力不足」の露呈を指摘されています。
2つのフランスを象徴、「勝ち組」代表のマクロン、「負け組」代表のルペン
失業率が高かった5年前とは違い、今回の大統領選はフランスでも過去数年間さらに広がる「格差」が重要な争点の一つになっています。
5年前にフランス史上最年少で大統領となったマクロン氏(44歳)は元「エリート」官僚で、経済を熟知し数字に強く、ITリテラシーが高いことで知られています。
「スタートアップ・ネイション」の旗手、マクロン
任期中「フレンチテック」と呼ばれるフランスのIT系スタートアップ企業支援に力を入れ、5年前にわずか5社だったフランスのユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場のスタートアップ企業)は現在25社に増えています。
グローバル化、IT革命から「取り残された」ルペン支持層
一方、極右国民戦線(Frond National = FN)党(現在の国民連合(Rassemblement National = RN)党)の創設者を父に持つ弁護士のマリーヌ・ルペン氏(53歳)は、「フランス人優先」「庶民の味方」をスローガンに掲げ、低所得層、特にグローバル化やIT革命についていけず「取り残された」とされる労働者階級に「フランスの再産業化」「外国人排斥」を訴え支持を拡大してきました。
TV討論でマクロン氏の態度が「上から目線」「傲慢」
大統領選直前のテレビ討論番組は年々視聴率が下がり、20日は66%と史上最低でした。それでも投票日を目前に1540万人もの視聴者にアピールする最大の選挙キャンペーンであることには違いありません。
最初のテーマ「購買力」で優位に立つつもりだったルペン氏に、マクロン氏は「あなたの公約を読んだが、失業という単語が一つもない。ということは私の5年間の失業対策を評価しているということですね」と始め、初っ端から相手を動揺させることに成功しています。
内容ではマクロン氏に軍配だが
さらに自らの実績への批判を巧みにかわし、公約には予算や根拠を用意、定年引き上げという不人気な公約への批判集中も避けるなど、討論の出来だけを見ればマクロン氏優勢に運んだと言えます。
ルペン氏が出す公約に関しても、項目ごとに「数字に根拠がない」「事実はこうだ」と覆し、同氏の「信憑性のなさ」を露呈することに成功しています。
そのためマクロン氏の理詰めにひるんで反論が曖昧になるルペン氏の姿は、視聴者にまるで「先生に間違いを指摘された生徒」のように映ってしまいました。
ルペン氏を「追い詰めすぎ」たマクロン氏に「庶民蔑視」批判
これは見る人によっては「ルペン氏の能力が低い」とマクロン氏に有利に思われますが、「庶民の代表」と宣言するルペン氏を支持する低学歴、低所得の労働者層には「上から目線」で自分たち庶民を「バカにしている」と見えてしまいました。
討論中のジェスチャーも話題になり、マクロン氏が終始「ルペン氏=同氏の支持者に向かって」話すべきところを、司会者の方を向いている事が多いなど、「ルペン氏に話しても無駄と解釈できる」という批判も出ています。
一方、5年前には声を荒立て取り乱した様子が批判されたルペン氏は、終始冷静にマクロン氏をまっすぐに見つめ「エリート相手に健闘した」と言われています。
同氏はテレビ討論後の最後の選挙キャンペーンで、現職大統領の「傲慢」や「庶民蔑視」批判を最大限に活かしています。
マクロン支持56%で微増、ルペン44%、最大の敵は「棄権」
テレビ討論後の世論調査で、マクロン氏への投票意図が0.5ポイント増えていますが、前回同様に今回の選挙でも「極右排除」のためだけのマクロン氏への投票を嫌疑し、投票所に足を運ばない人が増えるとみられています。
得票率20%の僅差で3位だった極左メランション(Jean-Luc Mélenchon)氏の支持者の票の行方が重要となりますが、前回と違い同氏が「一票たりともルペン氏に入れるな」と宣言したためか、マクロン氏への投票意図が36%、ルペン氏が19%となっています。
しかしながら、「マクロン氏は支持しない」ため「白紙投票もしくは棄権する」と回答した人は45%にも上ります。
脱化石燃料、環境問題への取り組み不足に失望
極左の支持層は「格差」に不満を持つ「反エリート」層、低所得層のほか、環境問題を最重視する層が多く、両候補どちらの公約にも賛同していません。
特にロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー問題で、目先のエネルギー逼迫懸念から原子力発電への再投資という方向転換など、脱化石燃料が遠のき、真剣な取り組みへの意思が見られないことに失望しています。
執筆:マダム・カトウ