フランス各地で急増する反ユダヤ主義 パリではポストにハーケンクロイツの落書き

2019.02.12

11日(月)、クリストフ・カスタネ―ル( Christophe Castaner)内相は、フランス各地で反ユダヤ主義者による差別的な発言やいじめなどが問題化していて、2018年の一年間で反ユダヤ主義による差別行為(Les actes antisémites)が74パーセント増加したと発表しました。

そんな中、パリ13区の区役所前にある二つの郵便ポストに描かれた、アウシュビッツ強制収容所(独:Das Konzentrationslager Auschwitz-Birkenau)の生き残りである政治家、故シモーヌ・ヴェイユ(Simone Veil、享年89歳)氏の肖像画の上にハーケンクロイツ(独:Hakenkreuz、仏:Croix gammée nazie、鉤十字)が描かれ、物議を呼んでいます。

 

各地で頻発する反ユダヤ主義

この数日、反ユダヤ主義者によるものと思われる差別行為や、器物の破損などがフランス各地で報告されています。

イラン・アリミ氏追悼の樹が切り倒される

11日、パリ郊外南部のエッソンヌ県(Essonne)にあるサント=ジュヌヴィエーヴ=デ=ボワ (Sainte-Geneviève-des-Bois)市の、故・イラン・アリミ(Ilan Halimi、享年23歳)氏が発見された場所に植えられた、追悼の為の樹木が伐採されているのが見つかりました。

切り倒されたのは、アリミ氏の命日の2日前でした。

イラン・アリミ事件

ユダヤ系住民であるイラン・アリミ氏は、2006年1月23日、パリ市内の携帯電話販売店に努めていた際、客を装ってきた女に呼び出された後、誘拐されました。その後、パリ郊外南部のバニュー(Bagneux)市内のアパートに3週間監禁され、2月13日にバニュー市から15キロほど南下したサント=ジュヌヴィエーヴ=デ=ボワ市内の線路沿いで、全裸で瀕死の状態でいるのが発見されました。

アリミ氏は、カッターナイフで切り刻まれたような傷やあざが全身にあり、また、体の80パーセントにやけどを負った状態で発見され、救急車で搬送されている最中に命を落としました。

ユダヤ人が標的になっていた

コートジボワール出身でバニュー市に住む、ユスフ・フォタナ(Youssouf Fofana)容疑者(当時)率いるおよそ20名の「Gang des barbares(野蛮人のギャング)」と呼ばれるグループの犯行で、45万ユーロ(およそ6525万円、1ユーロ:145円計算、2006年当時)から50万ユーロ(およそ7250万円)の身代金目的の誘拐でした。

同様の手口の事件が6件発生しており、標的になっていたのはいずれもユダヤ系の住人ばかりで、「ユダヤ人は金持ち」との先入観から行われた犯行だったことがわかっています。ニコラ・サルコジ( Nicolas Sarközy)内相(当時)は、これらを反ユダヤ思想による犯行と指摘しています。

 

パリ第13大学では反ユダヤ思想によるいじめで停学処分

パリ郊外北東部に広がるセーヌ=サン=ドゥニ(Seine-Saint-Denis)県にあるパリ第13大学では、昨年10月、19歳の女子医学生が、他の学生集団から自身がユダヤ人であることを理由にからかわれたり、侮辱をうけるなどのいじめ行為を受けたとして、被害届を提出しました。

いじめを首謀していた学生は1年間の停学処分を受け、またいじめに加担していた他の7名の学生も停学処分を受けています。

 

アウシュビッツ強制収容所の生存者の顔に鉤十字

パリ13区の区役所の前に設置されている郵便ポストに描かれている、故シモーヌ・ヴェイユ氏の顔の上に、ナチスドイツの象徴であるハーケンクロイツ(鉤十字)が描かれているのが11日見つかりました。

シモーヌ・ヴェイユ氏の肖像を描いたストリートアーティスト、クリスチャン・ゲミー(Christian Guémy )氏は、「大虐殺からの生き残りであるシモーヌ氏への私の敬意を侮辱し醜くしたものに恥を」とインスタグラムで抗議しています。

アウシュビッツ強制収容所の生存者シモーヌ・ヴェイユ氏

ヴェイユ氏は、1944年4月、16歳の時にポーランドのアウシュビッツ強制収容所に送られました。その後、別の収容所への、通称「死の行進」を経て、ドイツのベルゲン・ベルゼン強制収容所(独:Konzentrationslager Bergen-Belsen)に送られました。

1945年に生還し、その後は厚生大臣、欧州議会議長、欧州議会議員、国務大臣社会問題・厚生・都市大臣、憲法評議会議員を歴任、フランスの最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章(L’ordre national de la légion d’honneur)の最高位グランクロワ(Grand-Croix)を授与されるなど、フランス人に最も愛される女性と言われています。

パリ市長も抗議のツイート

ハーケンクロイツの落書きに対してパリ市のアンヌ・イダルゴ(Anne Hidalgo)市長も、「私たちも異議を申し立てましょう。憎悪に対して皆で立ち向かいましょう」とツイートしています。

パリで急速に広がる反ユダヤ思想による憎悪。ユダヤ系住民だけでなく、性的少数者(LGBT)へ向けての憎悪感情も広がりを見せています。

歴史を決して繰り返してはいけない、と強く願います。

執筆:Daisuke

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