11月29日(木)から30日(金)にかけて、国民議会(L’Assemblée nationale)は、親による子供への体罰を禁止する法案の採決を行い、賛成多数で可決されました。これにより、1804年に制定された民法(Code civil des Français/ナポレオン法典 Code Napoléon)によって親に与えられていた教育を目的とした体罰(violences éducatives ordinaires)の権利が大きく変わることになります。
賛成大多数で可決
国民議会では、29日の夜から30日にかけて、親による子供への体罰を禁止する法案を巡り議論が行われ、30日に採決が行われました。賛成51票、反対1票、棄権が3票で、賛成が大多数で可決されました。
この法案は、親は身体的、言語的および心理的暴力など、あらゆる体罰や屈辱などを用いることはできず、親の権限はいかなる暴力もなしに行使されること、と定めています。
広く容認されている体罰
フランスでは、親が子供を躾ける際に「お尻をたたく」「頬をたたく」「耳をつねる」といった体罰が広く容認されています。
学校内での体罰は禁止されていましたが、親による体罰に関しては禁止されておらず、躾のためにたたく行為などは、一般的なものとして捉えられてきました。
また、フランス世論研究所(Ifop/Institut français d’opinion publique)が2015年に行った調査によると、約70パーセントが「体罰禁止に反対」と答えていて、躾の為には体罰はやむを得ない、という考え方が過半数を占めています。
教育のためであれば処罰はない
今回可決された体罰禁止に関する法案は、その体罰が「教育的目的」を持っている場合の処罰は規定されていません。
法案を提出した中道派政党、民主運動(Mouvement Démocrate/MoDem)のモード・プティ(Maud Petit)氏は、「この法案提出には教育的目的がある。フランス社会全体に考え方を変えさせる役割がある。」とし、「暴力による躾は、社会に更に多くの暴力を生み出すことになる」と述べています。
二人の娘を持つマルレーヌ・シアッパ(Marlene Schiappa)男女平等差別対策担当副大臣(secrétaire d’État à l’Égalité entre les femmes et les hommes et à la lutte contre les discriminations)は、「親の権限を行使するために叩いたり怒鳴ったりする行為が適切だという考えは間違っており、教育的暴力など存在しない」としたうえで、「重要なのは、親が子供の為と思ってしてきた体罰が、子供の為にはならないと自覚し、子供と話し合うこと」と述べました。
さらに「子供を叩いた親を刑務所に入れるのはもってのほかだ。教育が全て」と処罰を規定する考えはないことを明らかにしました。
私生活に対する干渉か
一方、唯一反対票を投じた、極右的な考え方で知られる保守派無所属のエマニュエル・メナー(Emmanuelle Ménard)氏は、「親の特権を奪うことになり、さらにフランス人を再び愚か者にしてしまう」と、体罰による躾が出来ないリスクを指摘し、私生活に対する干渉だ、とこの法案に異議を唱えています。
55カ国目の体罰禁止法案制定
EU(欧州連合)加盟全28カ国の内、体罰を禁止していない国は、フランス、イギリス、イタリア、ベルギー、チェコの5カ国のみで、今回の法案提出は他のEU加盟国に足並みをそろえたもので、法案が可決されたことにより、EUで体罰を禁止していない国は4カ国となります。
今回の法案が制定されると、家庭内での体罰を禁止した国としては、世界で55カ国目となります。
体罰と躾、日本でも度々話題になりますが、今後も広く議論が交わされていくことが必要ですね。
執筆:Daisuke