パリ五輪の「理想と現実」、どうなった?立候補時の約束

2024.04.05

2024年4月5日(金)、「パリ五輪は皆のオリンピックになる」と2016年、五輪誘致に立候補したフランスを代表し、カヌーのオリンピック金メダリスト、仏五輪委員長のトニー・エスタンゲ(Tony Estanguet)は約束しました。開会式があと3か月後に迫る今、その約束は具体的にどうなったのか、フランスのメディアが検証しました。

 

約束その1:市中開催の開会式に「60万人」、誰もが参加できる?

パリ五輪の目玉の一つとして皆をあっと驚かせたセーヌ川で行う開会式は、2021年にパリ五輪の具体案が公表されたとき、「総数にして60万人が参加できる」と発表されました。

これまでスタジアムで行われていた開会式の参加人数は数万人が限度でしたが、セーヌ河岸の約6.3kmを利用して行うこの開会式は、有料チケットで購入した仮設スタンド席以外に、だれでも沿道で開会式を見ることができる「無料ゾーン」を設けることで「誰でも」参加できることから、スタジアム開催の10倍の数がはじき出されていました。

参加可能人数、当初の半分

しかしながら、治安維持上の困難から、フランスオリンピック委員会、パリ市、国の三者での度重なる協議の末、この数は採算下方修正され、今年に入り、有料ゾーン104,000人と無料ゾーン220,000人、合わせて当初の60万人から半数程度の326,000人になりました。

無料ゾーン、海外からの参加は実質不可能

さらに当初は誰でも「無料チケットをネットで申し込む」ことができると発表されていましたが、結局、国とパリ市、およびイルドフランスの自治体、オリンピック委員会が「信頼をもとに」配布することに変更されました。これにより、海外からの観客は排除され、パリ市民など地元の人だけが参加できることになります。自治体にわたるチケットの配布方法は決まっていません。

 

約束その2:すべての公共機関が無料?

2016年、五輪誘致に立候補した時、エスタンゲ大会委員長は、競技の入場券を持つ人は試合会場まで公共交通機関を「無料で利用できる」と宣言し、その後数年にわたりこの発言を繰り返していました。

ところが2022年12月、インフレで大会総予算の大幅な見直しを迫られると、「公共交通機関無料」に費やす予定だった4,500万ユーロ(約73憶8,000万円/1ユーロ=約163 円)は予算から削除されました。

無料どころか料金2倍に値上げ

無料でなくなったうえに、パリ及び郊外の交通を運営する、イル=ド=フランス・モビリテ(Ile-de-France Mobilités (IDFM))社は五輪開催の1週間前7月20日からパラリンピック閉会の9月8日まで、メトロのチケットなどを2倍の4ユーロ(約652円)に値上げすると発表しました。

地元民の費用負担が増えることによる不満を危惧し、定期代は据え置き、またチャージ式の回数券ナビゴイージー(Navigo easy)の利用者には7月20日前までにチャージするよう呼びかけています。

 

約束その3:セーヌ川で水泳競技?

この発表を最初に聞いたとき、多くのパリ市民が顔をしかめたセーヌ川での水泳競技は、今のところ開催されることになっています。

セーヌ川開催が予定されているのは、マラソンスイミングとよばれる男女10kmの遠泳と、トライアスロン(1.5km)の2競技で、競泳4種目やシンクロナイズドスイミングは、出来立ての新しいオリンピックプールで行われます。

パリ市、オリンピック委は「楽観」

セーヌ川を泳げるようにするために、14憶ユーロ(約2,296憶円)もの巨額の費用をかけ、過去数年間にわたり、川の水の浄化工事などが行われてきました。昨年8月のテスト運用の直前に大雨が降ったため、川から検出されたバクテリアの濃度が高く、予定されていたテストは見送られました。

パリ市と五輪委員会は、昨年は浄化システムがすべて完成していなかったとし、今年の8月には「問題なく利用できる」との見解を発表していますが、国は予想外の雨が降った場合、汚水がセーヌ川の遊泳箇所に流れ込む可能性は否定できないとし、競技開催に疑問を投げかけています。

パリ市と五輪委員会は、この場合も「数日間開催を延期すればいい」と楽観的な姿勢をくずしていません。

選手ら「不安」を表明、パリの歴史的価値より、選手の健康を第一に

一方、「選手たちの健康を第一に考えるべき」と、マラソンスイミング金メダリストのアナ・マルセラ・クンハ(Ana Marcela Cunha)選手(ブラジル)はメディアのインタビューに答えています。

同選手は「セーヌ川、そしてエッフェル塔など、その歴史的な価値がパリのオーガナイザーにとってどれだけ大事かよくわかりますが、残念ながら(水の汚染で)競技を開催できない場合もあることを了承すべき」、つまり、セーヌ川が利用できなかった際の別の場所を用意すべきだと主張しています。

さらに「セーヌ川は泳ぐのには適していないと思う」と述べています。

このほかにも、新しいパリ市郊外線の新路線の工事の遅れなど、いくつかの点がメディアに指摘されています。

当初の発表と大きくずれてきたパリ五輪の運営ですが、ユニークな大会になることは間違いありません。

執筆:マダム・カトウ

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