パリ五輪の裏側① – フランスならではの選手村の特徴は

2024.05.15

パリ2024 オリンピック AI

7月に開催されるパリ五輪まであと3ヶ月を切りました。すでにコンコルド広場やエッフェル塔前のシャンドマルスには競技会場が設置され、いよいよであることを意識させられます。

五輪はスポーツの祭典とはいえ、ホスト国にとってはその国の文化や風習、さらには国力をも紹介する良い機会です。パリ大会も例にもれずフランスの政治的意向を反映したアレンジが見られます。

今回から3回程度にわたって、フランス国外ではあまり報道されないと思われるパリ五輪の裏側をご紹介します。今回のテーマは選手村(village olympique)。そこから見えてくるキーワードは「持続可能性(durabilité)」と「美食(gourmet)」、そして「多様性(diversité)」です。

コンコルド広場に設置された競技会場

 

選手村の場所が選ばれた理由

今大会の選手村は、パリ市の北に隣接するサン・ドニ市、サン・トゥアン市、そしてセーヌ川の細長い中洲にあるリル・サン・ドニ市(L’Île-Saint-Denis)の3つの自治体にまたがって建設されています。

サン・ドニ市には歴代のフランス王家の墓がある由緒正しいバジリカ大聖堂があり、またサン・トゥアン市にはパリ近郊では最大というマルシェとフードコートが新オープンしました。こうした面白いスポットはあるものの、この地域は移民や低所得世帯の割合が高く、いわゆるキラキラしたパリとは違った雰囲気のエリアです。治安が悪いイメージがあるため、日本人が用もなく行くことはあまりない場所です。

現在パリ首都圏では、大規模都市再開発計画 「グラン・パリ(Grand Paris)」が進められ、いたる所で再開発が行われています。その計画の一環として、治安が悪いパリ北部郊外の再開発もかねてこのエリアに選手村が選ばれたと言われています。

ロンドン五輪の際はやはりあまりイメージの良くなかったロンドン東部の再開発を、東京五輪では湾岸地域の開発を裏命題として、選手村の位置が選ばれたとも言われています。オリンピックのような大きなイベントは、開発を進める起爆剤としてもうってつけのようです。

選手村の入口。工事が続いており一般人はまだ立ち入りできない

 

環境に配慮し「持続可能」な選手村

今大会ではオリンピックとパラリンピック合わせて約25,000人の選手と関係者が集う想定で、ちょっとした地方都市の人口が一度に寝泊まりできる施設が必要です。そのためサッカーコート70面分の土地に、宿泊施設はもちろん食堂やランドリー、公園などさまざまな施設が建設があります。

選手村設計のキーワードは「durabilité」(持続可能性)。2015年に気候変動抑制に関するグローバルな目標を定めたパリ協定締結を実現した自負もあり、フランスは外交から国家戦略まで気候変動を重視する姿勢を打ち出しています。今回の五輪もその例にもれません。

たとえば建築資材には天然素材を多用し、電力は再生可能エネルギーで100%賄われる予定です。選手村の中の広い範囲に緑地帯が設置されているのも特徴です。

寝具には東京オリンピックで話題となったダンボール製のベッドが今回も採用されているのに加えて、マットレスもリサイクル素材を使用。選手村内の移動は電動のシャトルバスや自転車に限るなど、徹底した環境対策が実施されています。

大会終了後の選手村は一般住宅やオフィスのほか、ホテルや学生寮、商業施設などに改装されます。そしておよそ2,500世帯、6,000人が生活するエリアに生まれ変わる予定です。

選手村の建物。左の白い建物が食堂となる予定。

 

選手村でも「美食」

選手村でもう一つ話題となっているのが、二つ目のキーワードの「美食」です。世界無形遺産のフランス料理を有するフランス、五輪でも食へのこだわりは半端なものではありません。ミシュラン星付きシェフが考案する献立も含めて、500種類の食事が24時間いつでも食べられる体制を整えるそうです。

持続可能性は食材にも当てはまります。食材は持続可能と認定された食材のみを提供。地産地消も考慮され、食材の1/4が選手村から250㎞以内で生産されるものとのこと。また使い捨ての食器・カトラリーは全廃され、フランス製の陶磁器が使用されます。

レストランの建物自体も注目されています。これはパリ郊外の映画スタジオ「Cité du Cinéma」を改装したもので、合計3,500席のイートインエリアを200人のシェフと1,000人のホールスタッフでカバーするという規模感です。五輪終了後も世界最大のレストランと銘打って引き続き営業する予定で、パリの新しい観光地になるかもしれません。

 

多様性をテーマに「開かれた」大会へ

パリ五輪がもうひとつ重視しているのが、東京大会からも引き継ぐ「多様性」というコンセプト。今大会のスローガンは「Games wide open」で、開かれたオリンピックにしたいというのがホスト国フランスの願いです。

閉じられたスタジアムから出てセーヌ川で開会式を開催するのも、街なかに競技会場が設置されるのも、オリンピックのマラソン終了直後にそのまま同じコースで一般向けマラソン大会が計画されているのも、一般市民に「開かれた」大会にするという思いが根底にあります。

パリ五輪は史上初めて選手の男女比が1:1になると言われています。パラリンピックの参加選手数も過去最高の見込みです。選手村で提供される各種「美食」も、あらゆる宗教や信条、食文化に配慮されています。より多様な人々が同様に親しみやすい大会にしたいという思いは、着実に実行に移されています。

 

五輪後も残る選手村

街なかに設置される競技会場はほとんどが大会終了後に解体されますが、選手村は一般向け施設として残ります。パリ五輪が終わったあともその雰囲気を味わえる選手村を、ぜひ見てみてはいかがでしょうか。ホスト国のフランスのさまざまな思いを反映した大会の開催は、もうすぐです。

執筆 Takashi

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