新鮮な野菜が並ぶマルシェ
フランスでは、地方の村からパリの中心部まで、どの街でも定期的にマルシェ(marché:市場)が立ちます。日本の朝市や、農家の方が直接ブースを構えるファーマーズマーケットのイメージと近いですが、フランスのマルシェはより日常生活への密着度が高い印象です。今回は、クリスマスマーケットや蚤の市ではないごく普通のマルシェと、そこでの買い物についてご紹介します。
マルシェとは?
marché という単語は、marchandise(商売)やmarchand(商人)が語源とされており、広く「商い」をする公共の場所というのが元来の意味だそうです。
マルシェには、広大なレアル(Les Halles:マーケットホール)という建物の中に常設のお店がいくつも並ぶ形式(marché couvert)と、街の広場で定期的に立つ市場の二つがあります。
前者は日本でいえば築地場外市場とか、もしくは商店街のようなイメージです。一方、後者は街の広場に曜日を決めて立つ青空市場を指します。この記事では後者のマルシェについて書いています。
マルシェはどんな小さな町でも立ちます。村民数百人のような小さな地方の村でも、決まった曜日に教会前の広場や普段は駐車場として使われている広場などにテントを立てて野菜、肉、乳製品、さらには調理器具や衣服など様々な物が並べられます。
パリでは水曜と週末が多いようですが、20ある各区で平均2つほどマルシェがあるので、毎日どこかでやっている印象です。だいたいは朝7時頃に始まり15時頃には店じまいという営業時間で、新鮮な食べ物を探すのであれば午前中に出向きたいところです。
食品に加えて調理器具や衣服などのお店も並ぶ
マルシェの人気が上昇するフランス
日本では、大型ショッピングモールの進出でその地元の商店街がシャッター街になるなど、個人商店の衰退がニュースになります。フランスでもこうした現象が社会的な注目を浴びますが、近年は大手チェーンの食品偽装問題が頻発していることもあり、マルシェも含めた個人商店での買い物を好む人が増える傾向にあるという統計もあります。
フランスで個人商店が注目を集める中、2018年より全国ネットのテレビ局が美しいマルシェのランキングを視聴者投票方式で始めました。毎年6月に開催され、22年は南部の観光都市ナルボンヌの120年続くマルシェが、23年はボルドー郊外のLa Réoleという町のマルシェが選ばれました。
両年ともパリなどの大都会は入っておらず、むしろ地方ほど住民の生活に密着して愛されて長く続いているといえそうです。
買い物客で溢れるマルシェ
マルシェでの買い物
マルシェには八百屋さんや肉屋さん、乳製品屋さん、総菜屋さんなどがいくつも並び、何でも揃います。たくさん並べられた商品は見ているだけでも楽しく、また太陽の光の下で見るそれらはどれもみずみずしく、購入欲をそそられます。
スーパーではなかなか見ない野菜や魚介類、その日の朝に農家から直接運び込まれたような新鮮な乳製品も多く並びます。レストランで出てきた見慣れない野菜などをどこで仕入れたのかシェフに聞くと、マルシェでということが多いです。マルシェは一般家庭からプロまでの幅広いニーズを満たすものといえるでしょう。
スーパーよりも高い…
ただし普通のスーパーよりも高いことが多く、物によっては2倍くらいしていることもあります。通常は値札が付いているのでボラれる心配はありませんが、マルシェで買い物をするとたいていスーパーよりも高くなります。
新鮮な商品が多いことは間違いないものの、季節物などはスーパーでも商品の回転が速いため、マルシェとスーパーとで目立った品質の差がないことも多々あります。新鮮だからといってマルシェだけで買い物をするのはあまり賢明ではないかもしれません。
たとえば、大体のものはスーパーでそろえて、そこになかったものや品質に満足できないものだけマルシェで補完的に買い足す、といった利用法が良いかもしれません。
店の人との会話を楽しむ
マルシェでの買い物では、店主との会話が必須です。並べられている商品を店主に頼んで希望する量だけ袋に入れてもらう必要があるので、フランス語に慣れない人にはスーパーよりもハードルが高いのは事実です。
ただ、少しくらいフランス語ができなくても嫌がられることはほとんどありません。むしろ、たとえば名詞の性を間違えて「Une concombre s’il vous plaît.」というと「concombreは”un”だよ」とさらっと教えてくれたります。また「この野菜どうやって食べるの?」と聞くと「今の時期はこういう食べ方がフランスでは一般的だよ」と教えてくれるなど、フランスの習慣やフランス語の勉強にもなります。
気さくな店主と話していると、いろいろな商品を勧められることもあります。パンを一つだけ買おうと思ったら、「今日ブリオッシュもおいしくできたんだけど試してみない?」などと言われて試食して、結局買ってしまうみたいなこともよくあります。
現金持参、スリには注意!
最近はクレジットカード決済が可能なお店が増えていますが、使用不可だったり下限額を設定しているところもあります。そのため現金も持っていった方が安心です。そして混み合うところには必ずいるスリにも十分気をつけましょう。
スーパーでは見ない珍しい魚介類も並ぶ
スーパーにはない魅力
限られた日しか開催されず、午後も早々に閉店してしまうマルシェ。しかも比較的値段も高いとなると、スーパーと比べて優位性がほとんどないように思えますが、コロナ禍も乗り越え人々が去る気配はありません。
そこには 馴染みの店主と会話しながら、産地の分かる新鮮な商品を買うことができるという、普通のスーパーにはない魅力があることも確かです。フランス語やフランスの文化を勉強する良い機会にもなるので、フランスに来た際はスーパーとの値段の比較をしつつ、マルシェでの買い物を楽しんでみてはいかがでしょうか。
パリのおすすめマルシェ3選
Marché d’Aligre:月曜以外毎日開催されるため、パリ滞在時間が限られている場合でも行きやすい。最寄駅はLyon駅。
Marché Edgar Quinet:青空市場ではパリ最大規模。庶民的なエリアにあるマルシェでパリ庶民の生活を観察するにはうってつけ。最寄駅はMontparnasse駅。水曜と土曜開催。
Marché Grenelle:エッフェル塔の近くで観光途中に訪れるのに便利。また、メトロの高架下なので天気が悪い時にも買い物しやすい。最寄駅はDupleix駅。水曜と日曜開催。
執筆 Takashi