12月27日(火)、今年もあと僅かとなったフランスではクリスマスを家族と過ごした後、大晦日は友人同士で集まりカウントダウンパーティをします。羽目を外して飲みすぎる友人を尻目に、お酒が飲めない人はジュースやソーダで乾杯していましたが、ここ数年、クオリティの高いノンアルコールワインやシャンパンなどが販売されブームになっています。
お酒が飲める人も、飲めない人もノンアルコール
これまでアルコールの入っていないお酒といえば、ノンアルコールビールやクリスマスの子供向けシャンパンもどき「シャンポミー」(Champomy=シャンパン(champagne)に原料のリンゴ(pomme)を引っ掛けている)、蛍光色のノンアルコールカクテルぐらいしかありませんでした。
ビール以外、これらノンアルコール飲料のほとんどが甘いばかりで、ラグジュアリーマーケットの専門家、アリーヌ・ポッゾ=ディ=ボルゴ(Aline Pozzo di Borgo)氏によると、「主なターゲットはお酒を飲んではいけない妊婦」でした。
フランス人のアルコール消費量、過去60年で半分以下
世界で最もお酒を飲む国ランキングで6位に輝くフランスですが、アルコールの消費量は年々減っています。フランス人が1年に消費するアルコールの量は1960年の200リットルから2018年には80リットルに激減しています。
ポッゾ=ディ=ボルゴ氏によると、「昨年あたりからフランスでもドライ・ジャニュアリー(”Dry January”)」が流行り始めたように、「お酒を飲まないでいられることは、「ハイプ」(hype(英)=ワクワクする、刺激的)なこと」なのです。
この傾向は特に「リーズナブル」な飲酒を好むミレニアル世代に顕著に見られます。
3年前、ノンアルコールジンメーカー「JNPR」を設立したヴァレリー・ドゥ・シュッテール(Valérie de Sutter)氏は、当時、関心がある人は限られていた、と話しています。
同社の商品を買う人のほとんどはアルコール入りのジンも飲みますが、平日は仕事に集中するため、週末も車を運転する前はノンアルコールを飲むというようにメリハリをつけたり、飲みすぎないようにとアペリティフ(食前酒)はノンアルコール、食事に入ったら「通常の」ジンを飲むことで、トータルのアルコール摂取量を抑えている人もいます。
本物の味、ワインや蒸留酒の作り手が参入
本物のお酒の味、香りになれた顧客を掴むには、彼らが納得できる「本物」を用意しなくてはなりません。彼らの舌はアルコールを単に砂糖の甘みで代替えしただけではごまかされないからです。
そこにクオリティーの高いワインや蒸留酒の作り手が本格参入し、本物の味を作れるようになったことでノンアルコール飲料のマーケットは様変わりします。
最優秀ソムリエ、ノンアルコールワインの開発に参加
「アルコールを飲まない私は、パーティーに行ってもワインやシャンパンに匹敵するようなノンアルコールの美味しい飲み物がなく、ジュースかコーラを飲むしかなかった」というファティ・ベンニ(Fathi Benni)氏は、5年前に「プチ・ベレー」( Petit Béret)というノンアルコールワインと蒸留酒メーカーを設立しました。
同氏の本物へのこだわりは、共同経営者が2004年のフランス最優秀ソムリエのドミニク・ラポルト(Dominique Laporte)氏であることからも伺われます。
ワイン作りに使われるブドウの品種を使い、ワインからアルコールを抜いたりせずに直接ワインの風味を出すという難しいテクニックの開発は、ラポルト氏の監修の下、フランス国立農業研究所(Inrae)の協力で行われました。
本物と違いがわからない、洗練された飲み物に
この技法でブドウは発酵することはなく、つまりアルコール化を一度もせずに「ノンアルコールワイン」が生まれます。
よって、酸化防止剤として使われる亜硫酸塩等の化学成分は一切含まれていません。
プチ・ベレー社は、現在ノンアルコールの赤、白やスパークリングワインのほか、ラムやウイスキーなど様々な本格的ノンアルコール飲料を販売していますが、ベンニ氏は「本物との違いがわからないほど」にクオリティーが高いと述べています。
ノンアルコール、最初からラグジュアリーへ参入
気になる料金ですが、プチ・ベレー社ではワイン1本10ユーロ(約1400円/1ユーロ=約140円)前後と、一般の標準的なワインと同じぐらいの値段で販売されています。(ちなみにフランスのスーパーで売られている安いワインはその半額以下)
「アルコールが入っていないからといって安く作れるわけではありません」というベンニ氏によると、生産コストはノンアルコールの方が30%ほど高いようです。
JNPR社のドゥ・シュッテール氏も、アルコールの「焼けるような感じ」がない分、お酒には入れない自然の香味料やハーブなどを大量に使用するため「原材料費にコストがかかっている」と説明しています。
「洗練されたノンアルカクテル」がニューノーマルに
特記すべきは、こういった質の高いノンアルコール飲料の原料がオーガニックであることや、洗練されたパッケージなどでラグジュアリー市場に参入している点です。
JNPR社は現在パリで人気のバーや大手レストラングループと提携していますが、それによりこうした店のカクテル売り上げの実に40%がノンアルコールということが明らかになりました。
ドゥ・シュッテール氏は「パリで最も粋なバーを名乗りたかったら、それに見合うだけの洗練されたノンアルコールドリンクを出すべきね」と述べています。
執筆:マダム・カトウ
(注)OECD(経済協力開発機構)加盟国内のアルコール飲料消費量ランキング