6月15日(水)、フランスでは高校卒業資格にあたるバカロレア(baccalauréat)の最終試験がスタートしました。5月に行われた専門試験(詳しくはこちらの記事)につづき、今回は哲学やフランス語の試験が行われ、約52万人が受験します。
共通科目「哲学」「フランス語」
バカロレアには3種類あります。このうち大学進学につながる普通課程を卒業すると取得できる普通バカロレア(Le baccalauréat général)は、さらに文学コース(Baccalauréat littéraire, L)、経済・社会(Baccalauréat économique et social, ES)、科学(Baccalauréat scientifique, S)に分かれています。
試験では、コースに合わせて指定される専門科目と共通科目があり、15日に行われた「哲学」と16日に行われる「フランス語」は共通科目となっています。
今年の出題は?
普通バカロレア試験では、今年も例年通り3つのテーマから1つを選んで回答する形式の出題となりました。テーマは以下の通りです。
ー « Les pratiques artistiques transforment-elles le monde? » (芸術的実践は世界を変化させるか?)
ー « Revient-il à l’Etat de décider de ce qui est juste? »(正義を決定するのは国家か?)
ーun commentaire d’un extrait de l’Essai sur les fondements de nos connaissances et sur les caractères de la critiques philosophiques, d’Antoine-Augustin Cournot アントワーヌ=オーギュスタン・クールノー著『我々の知識の土台と哲学的批判という性質についてのエッセー』からの引用部分についての批評を述べよ
ちなみにクールノーは哲学者であると同時に、経済学で均衡理論などを展開したことで知られています。
「哲学」どう回答?
上記のような問題について、果たしてフランスの高校生はどのように回答するのでしょうか?
進級や進学など、学生向けの情報をまとめているエチュディアン(l’Etudiant)によると、1番目のテーマについては以下のように説明されています。
「芸術的実践は世界を変化させるか?」
ー概念(les notions)
・芸術(L’art)、労働(le travail)、科学(la technique)、自然(la nature)、意識(la conscience)
ー提起すべき問題(la problématique)
「芸術をすると、新たな世界を構築できるのか?」(Faire de l’art permet-il de construire un autre monde ?)
ー論じるべきポイント(les points clés)
・「芸術的実践」とはなにか。作品の実現の仕方、公に向けて制作するかどうか、創造性や専門教育の必要性などについて触れながら論じる。
・「世界」とはなにか。宇宙か、地球課、人間世界(人間社会)か、内的世界か
・「変化させる」とはどういう意味か。なにを変化させるのか、なぜ変化させるのか、なにをもって変化させるのか?
ー構成
1.芸術的実践は世界を変化させうる。
2.非芸術的な手段がある場合に、芸術的実践は世界を変化させうる。
3.芸術的実践は世界それ自体を理解し、模倣する行為であって、世界を変化させることはない
この説明はあくまでひとつの案にすぎないですが、この「哲学」科目では、なにかひとつの正答を期待しているというよりは、さまざまな回答が可能であることがわかります。
ただ、定義すべきキーワードや、テーマから導き出すべき問題はある程度絞られ、これらを慎重に論じることが求められているようです。
執筆あお
参照
L’étudiant Sujets corrigés bac philosophie 2022
フランス国民教育省 Le baccalauréat général