パリ五輪の裏側③ – パラリンピック開催でも進まないバリアフリー化

2024.07.31

いよいよはじまった2024年パリ・オリンピック。そのあとに続くパラリンピックへの期待も高まっています。今回はパリでのパラリンピック開催に合わせて、フランスのバリアフリー事情、さらには障がい者の社会進出事情についてご紹介します。

 

バリアフリー化が遅れるパリ

パリを歩くとすぐに気づくのが、日本と比較してバリアフリー化が遅れているということ。車椅子同士がすれ違えるような広い歩道があるのは、「avenue」や「boulevard」という名の大通りのみ。通常の通りを指す「rue」や小径のイメージに近い「voie」は、歩道があっても人が一人やっと通れる程度ということが多々あります。

美しい石畳の道もアスファルトに比べるとでこぼこで、車椅子やベビーカーにとって便利とは言えません。さらにそういった狭い道にも車がびっしり縦列駐車をしています。歩道に乗り上げた車を避けながら進むのは、肉体的にも精神的にも負担を強いられます。

メトロも不便

網の目のように張り巡らされたメトロは、パリ市内の移動に欠かせない存在です。しかしパリ交通公団(RATP)によると、バリアフリー化を達成できている駅は全体の9%(東京は88%)とのこと。それもパラリンピック開催を控えてバリアフリー化を加速させた結果の数値。2022年時点ではわずか3%、全303駅中9駅のみだったそうです。

その達成率の向上にもからくりがあるようで、バリアフリー化されたのは今年延線された14番線の新駅がほとんど。従来からある1~13番線では進捗がないそうです。

実際、幼い子がいる私の友人は「ベビーカーでメトロに乗るのは実質不可能」と言い、100%低床化されてパリ中をくまなく運行しているバスを日常の足としています。

旅行者にとっても、大きなスーツケースを持ってパリ市内を移動するのは一苦労です。パリ旅行の際、紳士なパリジャンにメトロの階段で荷物を引き上げるのを手伝ってもらったという方もいると思います。逆に言うとエレベーターやエスカレーターがないため、周りの人に頼るしかないという状況があるわけです。

劣化している点字ブロックも

視覚障がい者への対応も、日本と比べると遅れているように思えます。音の出る信号機や点字ブロックなどは主要駅周辺などに限られており、その点字ブロックも経年劣化して用をなしていないようなものがよく見られます。

そのためか、私の肌感覚ではありますが単独で出かけている視覚障がい者は東京よりも少なく、必ずと言ってよいほど付き添いの方が一緒にいる印象です。

横断歩道に設置された点字ブロック

 

障がい者の雇用目標は日本より高い

これも私の肌感覚ですが、パリよりも東京のほうが街なかで障がい者を目にすることが多い印象があります。バリアフリーが行き届いていないことが一因かもしれませんが、フランスでは企業の障がい者雇用義務の水準が日本よりも高いことを考えると不思議です。

フランスでは、従業員数が20名以上の企業に6%の障がい者雇用比率が定められています(日本は40名以上で2.5%)。そして国は障がい者雇用のための設備投資や研修の費用などさまざまな助成金を用意しています。

障がい者職業参入基金管理運営機関(Association de Gestion du Fonds pour l’Insertion Professionnelle des Personnes Handicapées:AGEFIPH)によると、2022年にフランス全土で雇用されている障がい者は約112万人で、全就労人口のうち約4%。雇用義務の割合である6%より低いですが、これは20名以下の企業には義務がないことや、雇用できない場合は代わりに納付金を支払う制度があることなどが理由のようです。

また就労年齢に達した障がい者の失業率は2022年で12%。健常者の失業率7.2%よりも高いことが分かります。

「障がい者」の定義は広い?

ここで言う「障がい労働者」とは、障がい者権利自立委員会(Commission des droits et de l’autonomie des personnes handicapées)によって認定を受けた人のことを指し、この認定を持つ人のみが雇用義務制度の対象となります。

フランスでは「障がい者」の定義が広いということもよく言われ、人口の約10%が障がい者と認定される可能性もあるそうです。そのため障がいを持つようには見えない人が認定を受けているということもあります。それもあって、社会進出している障がい者が一見少ないように思えるのかもしれません。

 

障がい者を雇用するカフェ

そんな中、知的障がい者をスタッフとして雇用することで急速に知名度を増してきているカフェ・チェーンがあります。Café Joyeux という名のお店で、2017年の創業以来コロナ禍にも負けず、フランス全土はもとよりベルギーやポルトガルにも進出しています。

ハンディキャップを持つ人が社会に貢献している姿に触れることで、社会の理解を深めることもこのカフェの目的のひとつ。そのためパリではオペラ地区やシャンゼリゼ通りなどにぎやかな場所にあります。

とはいえ Café Joyeux はあくまで普通のおしゃれなカフェ。スターバックスなどと変わらない通常の値段で営業しており、そうした理念のあるお店であることは気づきにくいです。私自身このカフェの存在は知っていましたが、2020年にマクロン大統領夫妻がシャンゼリゼ通り店のオープンに駆けつけてニュースになるまでは、ごく普通のお店だと思っていました。

日本にも同じようなコンセプトのお店がありますが、フランスでも日本でもこういった取り組みがより広がっていけばよいですね。

マクロン大統領が除幕式に訪れたCafé Joyeuxシャンゼリゼ店

 

誰もがより生活のしやすいパリに

フランスは、フランス革命を経て les droits fondamentaux de l’homme (基本的人権)という概念を世界で初めて提唱した国です。それもあって障がい者の人権を確保する一助ともなる障がい者雇用制度や差別防止法などが多数制定されています。

その一方で、パリのバリアフリー化の遅れに見られるように、ハード面での対応では世界をリードする状況にはありません。今回のパラリンピックでこの現状が広く認識され、誰もがより生活のしやすい、また旅行のしやすいパリになることを願うばかりです。

執筆 Takashi

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