ハロウィーンが終わるとフランスの街ではクリスマスの飾り付けが始まります。12月に入るとクリスマスムードがさらに盛り上がり、街が一気に華やぎます。今回はクリスマスに欠かせないお菓子に関して、伝統的な物から新しいトレンドまでご紹介します。
伝統的なクリスマスのお菓子
フランスのクリスマスケーキと言えば、やはりbûche de Noël(ブッシュ・ド・ノエル、発音はビュッシュ・ドゥ・ノエル)でしょう。フランス人は単に bûche と呼び、フランス全土で愛されています。
「クリスマス(Noël)の丸太(bûche)」の名前通り、丸太を横倒しにしたような形のケーキです。大きさも作り方もロールケーキとよく似ており、木の皮を模したチョコレートクリームで表面をコーティングしたものが一般的です。味は見た目のままで特に驚きはありません。
丸太の形を模している理由はいろいろな説がありますが、中でもヨーロッパの冬に欠かせない暖炉で燃やすものという説が有力なようです。また冬至の日に大きな丸太を燃やして新しい年の厄除けをするというヨーロッパの古い習慣をもとに、クリスマスに家族で大きな丸太を囲むという意味合いもあるようです。
筆者撮影:伝統的なbûche de Noëlも毎年いろいろな新種が登場する
もうひとつ全国的に親しまれるクリスマスのお菓子に、omelette norvégienne(ノルウェーのオムレツ)というものがあります。アイスクリームにメレンゲをかけ、さらにそれを火で少しあぶって食べるデザートです。
日本ではあまり有名ではありませんが、西洋ではいろいろなところで食べられ、いろいろな名前で呼ばれています。発祥についてはよく分からないようですが、アイスクリームを使うことを考えると何世紀も続くような古いお菓子ではなさそうです。
地域的なクリスマスのお菓子
地域的なものとして、まずはアルザス地方のkouglof(クグロフ)をご紹介します。アルザス地方はドイツとの国境地帯にあり戦時中はドイツ領にもなるなど、ドイツ文化の影響を強く受ける地域です。クグロフもフランス語には見られない「k」から始まる単語で、ドイツ語が起源であることが分かります。
真ん中が抜けた大きなプリンのような見た目で、一人で食べられる手のひらサイズのものから、10人くらいで切り分けて食べる王冠サイズくらいのものまで多々あります。
アルザス地方ではブリオッシュ生地が使われることが一般的で、アーモンドやレーズンなどが入ったものもあります。粉砂糖がかかっていることが多く、見た目もクリスマスらしいお菓子です。
オーストリアのハプスブルク家出身のマリー・アントワネットの好物だったとされ、オーストリア起源説が強いようですが、アルザス地方ではアルザス起源と考えられているようです。
いわく、キリストの誕生に立ち会うためベツレヘムに向かっていた東方の三博士が、アルザス地方に宿を取った際に焼いたお菓子とのこと。そこからキリストの生誕祭であるクリスマスと結びつけられて考えられるようになったのだそうです。
筆者撮影:アルザス地方のクリスマスのお菓子、kouglof
フランス南東部のプロヴァンス地方には、Treize Desserts(トレーズ・デセール)というクリスマスの伝統があります。これは決まったお菓子の名前ではなく、文字通り13種類(treize)の違ったデザート(desserts)を準備するというものです。その内容に特に決まりはなく、ヌガー、ビスケット、フルーツなどを用意することが多いようです。
クリスマスのお菓子の新しいトレンド
最近の新しいトレンドとして、イタリアのpanettone(パネットーネ)というクリスマスのパンがフランスで浸透してきています。大きなカップケーキのような形をしたブリオッシュ生地のパンで、何人かで切り分けて粉砂糖をかけて食べます。ジャムやチョコチップ、ドライフルーツなどが入ったものなど種類が豊富です。
イタリアではクリスマスの前に買っておいて当日に家族で切り分けて食べるのが伝統だそうですが、クリームなどを使っておらず日持ちがするため、フランスでは11月も終わりになるとスーパーにさまざまなパネットーネが並びます。そのため私は普通に朝食として食べたりしています。
また、新しいトレンドではないそうですが、bûche de Noëlのアイスクリームケーキをよく見ます。冷凍食品なので生菓子のケーキよりも保存しやすいからか、私の周りにはこちらを好む人の方が多いくらいです。
暖炉の前でアイスクリームケーキを食べるというのは、こたつに入ってアイスを食べるのを贅沢と考える日本人の感覚に近いものがあるかもしれません。
筆者撮影:最近よく見かけるようになったパネットーネ
いろいろなお菓子をぜひ
フランスのクリスマスのお菓子には伝統的な物から新しいもの、さらには外国由来の物までいろいろあります。伝統的なお菓子でも、いろいろアレンジを加えたり有名なパティシエが再定義してみたりと、毎年話題が尽きません。定番のbûche de Noëlだけではないフランスのクリスマスのお菓子、ぜひ試してみてください。
執筆 Takashi