2023年9月29日(金)、今年の夏、TikTokでSweetFiberと名乗るアメリカ人女性が「フランスのレストランで出される無料のパンは、拒否すべき」という投稿がSNSで拡散、英米のニュースで取り上げられ更に拡散しました。これについて、フランスパン職人協会はこういった根拠のないSNS投稿に不快感を表明、本当の理由を説明しています。
無料パンで食欲増加、レストランが金儲けの罠?米SNSで根拠なき非難
「フランスのレストランで出される無料パンは、もっと料理やデザートを注文させる」目的で出される、とTikTokに投稿したビデオで断言するSweetFiber氏は、その根拠として、こういった「質の悪い、大量生産された」パンは、植物繊維に乏しく、糖質が高く、その後激しい空腹に襲われると説明しています。
この投稿を英米のメディアが取り上げたことから、Denise@SweetFiber氏の投稿は140万回閲覧され一気に拡散しました。
肥満にならないための対策と称し、科学的根拠に乏しい持論を拡散する同氏は「復活」の信奉者で、投稿の中には「断食の間に再生する」と暗に片腕しかない人から新しい腕が生えてくることを示唆するようなものもあります。
さて、確かにパンに含まれる糖質が高いのは事実かもしれませんが、これはレストランのせいでしょうか?
レストランは「パンを無料で出すべし」は法定義務
客としては実に気前の良いフランスのレストランの無料パン、実はサービスでもなんでもなく、法律で定められているのです。
1967年6月にできたレストラン(料理を運ぶ店内飲食)関係の法律4条「食事や飲み物の料金表示義務」の中に「パンは無料で利用客に提供されなければならない」と定められています。
4条には、パンだけでなく、水道水、香辛料といった味付けに使うもの(塩、胡椒、ケチャップ、マスタードなど)の無料提供と、客に皿やナイフ、フォーク、スプーンなど食事に必要な器具を貸し出し、ナプキンを提供することも明記されています。
ちなみに同じ欧州圏内のドイツやスペインにはこういった法律は存在しませんし、当然アメリカにもありません。
パンの品質で差別化するレストランも、パン職人業界が反論
フランスパン職人業界は、アメリカで起こったフランスのパンへの思わぬ非難に対し、悪いイメージばかりがメディアで拡散されているが、現在フランスでは、パン職人が厳選した小麦で丹精込めて作ったクオリティーの高いパンを支持し、提供するレストランが増えている、といった事実が「全く無視されている」と反論しています。
こういった良質なパンは、1回のサービスでカラカラになる最安値のバゲットよりも長持ちするため、食品廃棄が少なくて済みます。
レストランの中には、自家製のパンを作ったり、パン屋を始めるところもあります。
またまたパンがバッシングに、イメージアップにパン業界は無力感
深刻な肥満の増加、グルテンアレルギーなど、その原因としてパンや小麦が挙げられ、「パンの消費量を減らそう」というパン業界への逆風が年々強まっています。
フランスでも先述のSNS投稿をきっかけに、雑誌コスモポリタンのフランス版に「節約したかったら、レストランでパンを食べるのをやめよう」といった記事が出ています。
パン業界関係者も、消費者の嗜好が変わってきた事実を受けとめ、パンの栄養価についても知識を増やし、重きを置いていく必要があるとの見解を示しています。
残念ながら、パン職人業界も科学的な根拠などを持ってSNSや巨大メディアに反論するすべもなく、当面はこの「バッシング」を受け続けるだけになりそうです。
執筆:マダム・カトウ