12月9日(金)、パリ地下鉄およびパリと郊外を結ぶRER(地域高速交通)やバスなどが利用できる定期券「ナヴィゴ」(Navigo)が来年1月から10ユーロ(約1440円/1ユーロ=約144円)、12%も値上げされることがイル=ド=フランス交通公社(Île-de-France Mobilités (IDFM))で予定されています。これに対し左派連合、フランス最大の労働組合CGTの呼びかけで6日(火)、イル=ド=フランス地域圏庁前に数百人が集まり抗議デモを行いました。
来年1月より、ナヴィゴ75ユーロが 84ユーロに
「ナヴィゴ」はパリ及びイル=ド=フランスの5ゾーン内なら乗車区間に関係なく均一料金で、現在大人料金は月額75.20ユーロ(約10,830円)です。
これが来年1月1日から84.10ユーロ(約12,110円)と、実に12%近く値上げされます。
4億5000万ユーロの赤字、政府の援助で20%の値上げは回避
エネルギー危機による電気代の大幅な上昇により、値上げが行われなければイル=ド=フランス交通公社の2023年の予算は、4億5000万ユーロ(約647億8000万円)の赤字が見込まれていました。
イル=ド=フランス地域圏知事で交通公社の社長でもあるヴァレリー・ペクレス(Valérie Pécresse)氏(共和党)は「このままでは、ナヴィゴは20%値上げして90ユーロ(約12,960円)にせざるを得ない」と述べ、政府に対し補助金による援助を要求していました。
これに対しフランス交通相クレモン・ボーヌ(Clément Beaune)は、「定期代の大幅値上げを抑えるため、2億ユーロ(約287億4,000万円)を補填する」と述べ、さらに「(この補助金は)強力かつ一時的な」援助であると念を押しています。
運転手不足でサービス低下、値上げ、税金で補填のトリプルパンチ
「ナヴィゴ値上げ反対!」「公共交通に投資を」「私たちは家畜じゃない!」と、パリ郊外のサントゥアン(Saint-Ouen)のイル=ド=フランス地域圏庁前に集まったデモ隊はこうしたスローガンを叫んでいます。
値上げ以前に、ここ数ヶ月、運転手不足などの理由でパリ地下鉄のダイヤは多くの路線で頻繁に乱れ、しかもラッシュアワーでなくとも満員状態が続くなど、利用者の不満は募る一方です。
サービスの著しい低下を訴えるため、デモ隊の中には「イワシ」の仮装をした参加者もいます。
「すし詰め状態」のことをフランスでは「イワシの缶詰状態」(”comme des sardines en boîte “)ということから、彼らは「私たちは缶詰のイワシじゃない」と訴えているようです。
値上げ反対署名運動に3万人
デモを呼びかけた野党左派連合(Nupes)は、デモに先立ち署名運動を行い、3万人の署名を集めました。
左派連合代表らは、料金の現状維持を求め、値上げに至ったのは交通公団の社長を兼任する右派ペクレス氏の「経営ミス」によるものであり「値上げは避けられたはずだ」と主張しています。
また20%の値上げは回避されたものの、国からの緊急援助で補填することに対して「利用者は値上げ分を払わされる上、税金という形で支払う、つまり結局は利用者が負担することになる」と痛烈に批判しています。
運賃値上げ、ナヴィゴのみならず
パリ地下鉄のチケット代はパリ23区内均一で1.9ユーロ(約274円)から2.10ユーロ(約302円)に、カルネと呼ばれる紙のチケット10枚綴り(注)は、16.90ユーロ(約2430円)から 19.10ユーロ(約2,750円)に、チャージ型のカルネ、ナヴィゴ・リヴェルテ・プリュス(Navigo Liberté+)は1.49ユーロ(約215円)から1.69ユーロ(約243円)に値上げされます。
パリ及びイルドフランスのバス代は地下鉄料金と同じですが、車内で運転手から購入する割増料金は現在の2ユーロ(約288円)から2.5ユーロ(約360円)と実に25%も値上げされます。
またナヴィゴの学生料金(料金1年分)「イマジネール」(imagine R)に関しては、来年の8月末まで342ユーロ(約49,250円)と現行料金が据え置かれ、9月の新学期より365 ユーロ(約52,560円)に値上げされます。
ペクレス知事、企業に負担増を!定期の値上げ分
パリ及びイルドフランスでは、最低でも定期代の50%を企業が負担することが定められ、一部の企業は75%まで負担しています。ペクレス知事は企業に対し「会社負担分を75%に上げるように」呼びかけています。
(注)パリ地下鉄は紙製のチケットを廃止し、カードチャージ型に移行する方針を打ち出しています。
執筆:マダム・カトウ