フランス コロナ後の人材不足、インフレで企業に昇給圧力

2021.10.19

フランスインフレで企業に賃上げ圧力

10月19日(火)、コロナ禍後のインフレに伴い、10月1日に今年2回目の最低賃金(SMIC)が行われました。コロナ禍で離職が増えた業種は人材不足に陥っており、これを好機と見た労働組合は一層の賃上げを要求し、企業は対応を迫られています。

 

最低賃金今年2回目、2.2%上昇

フランスの最低賃金は今年の1月1日に0.99%値上げされていましたが、10月1日からさらに2.2%、額面で35ユーロ(約4,550円/1ユーロ=約130円)引き上げられ、月給は額面で1589.47ユーロ(約206,600円)となりました。

理由は、原油価格の上昇による電気代の値上がりや、アルミニウムから小麦まで様々な原材料の高騰によるインフレがもたらす消費物価の上昇が顕著になってきているためです。

ちなみに過去2年間の上昇率を見ると2019年1月に1.5%、2020年コロナ禍によるロックダウン前の1月に1.2%であったため、今年は2回合わせて3%超の大幅な上昇となっています。

これを受け、コロナ禍によるロックダウン中にも国民のライフラインとして重要な役割を果たしたスーパーなどの業界では、その見返りを要求する時期にきたと見て労働組合がさらなる賃上げを要求しています。

 

過去12ヶ月で近年稀に見る2%のインフレ

フランス国立銀行(Banque de France)は過去12ヶ月のインフレ率を2%と見ていますが、これは近年においては前例のない数値になります。

過去数カ月間、アジアでの感染拡大による工場などの稼働率が低下していましたが、感染が収まり再び上昇し始めたことや、ワクチン接種が進む先進国での感染減による需要の急増が一次的にインフレを引き起こしている、つまり「ポストコロナ」的現象なのかは見極めが難しいところです。

労使関係の専門家は、「(いつ終わるかわからない現在の急激なインフレ状況を利用して)労働組合が大きな賃金引き上げ交渉をするなら今だろう」と話しています。

 

クリスマス商戦を前に小売業界の組合、ストとデモ

先週末にはスポーツ用品チェーン最大手のデカトロン(Décathlon)やスーパーチェーン大手のカルフール(Carrefour)などの組合がストライキをし、全国でデモを行っていました。

デカトロンを所有するのは、巨大なファミリー経営を行うフランスのグループミュリエーズ(Mulliez)で、スーパーチェーンのオーシャン(Auchan)やビュット(BUT)他、フランスの多くのファッションブランドチェーンを保有しています。同グループではこれまでストライキはごく稀でした。

ロックダウン中に会社に協力した従業員たちに、今見返りを

フランスの電力大手EDFも、10%の賃上げを狙って本日19日にストライキを行っています。CGTの電力系組合の書記長、ファブリス・クドゥール(Fabrice Coudour)氏は「今年に入り毎月のように値上がりする電気料金で、会社は大きな恩恵を受けているはず」で、社員は「コロナ禍の間は多大なる努力を強いられたから、その引き換えに当然のこと」と強気の交渉に意欲を見せています。

NAO(négociation annuelle obligatoire)と呼ばれる、フランスの労働法で義務化されているベースアップの交渉を12月に控える医薬品業界の労働組合も、やはりコロナ禍中も生産ラインを止めず、ロックダウン中も従業員がリスクを負いながら会社に協力してきたことから大きな成果を期待しています。

ロックダウン中にやはり稼働を続けたリサイクル業界も、ゴミ収集車の運転手といった人材確保が困難なことからも、インフレ上昇率および最低賃金の上昇率を超える前代未聞の2.5%の賃上げにサインしています。

中小企業も例外なく

これらの賃金引き上げ要求の波は大企業にとどまらず中小企業にも押し寄せており、労務専門のコンサルタント会社ピープルベースには中小企業からの問い合わせがひっきりなしに来ています。

 

人材不足が深刻なホテル、レストラン業界6〜9%の賃上げ要

コロナ禍で長く閉店が続いたホテル、レストラン業界は、今年6月のロックダウン解除後もコロナ以前の業績回復にいたっていないところが多い中、11月18日に労使間の交渉を控えています。

長期にわたる休業を家で過ごした従業員の中には、週末や夜間の勤務があるこの業界に見切りをつけて転職する人が多く出ています。そのため営業再開したにも関わらず従業員が全員戻ってこず、人材不足で閉店を余儀無くされた店もあります。

 

最低賃金だけが上がっても、給与上がらず

最低賃金だけ引き上げられても、それ以上の給与をもらっている人にとっては、個別の給与が上がるわけではありません。

フランスでは業種ごとに職種に応じた等級が決められており、それぞれの等級に定められた最低賃金を上げる必要があります。しかし、実際はその等級の最低賃金以上に支払わないと雇えないということが多々あります。

そして、これまで最低賃金よりも少し高い給与を得ていた従業員にとっては、最低賃金との差額が少なくなるまたは差が無くなってしまいます。

個別の給与の見直し、ボーナス制度や配当制度の導入を

ホテル、レストラン業界も、国が定める最低賃金が上昇すると、業界における下から5つ前の等級の最低賃金を超えてしまいます。

同業界で季節労働者を派遣する経営者連盟(Umih)代表のティエリー・グレゴワール(Thierry Grégoire)氏は、「全体的に6〜9%の昇給が必要」で、「年一回のボーナス制度(給与13ヶ月分制度)」や利益に応じて「社員にもベネフィットがある配当制度」などの導入の検討が必要とコメントしています。

いずれにしても、社員一人ひとりの給与を一時的にでも引き上げることが急務となっています。

執筆:マダム・カトウ

オンラインフランス語学校アンサンブルアンフランセは、プロの講師によるマンツーマンのスカイプレッスンが1回1500円~受講できます。いつでもどこでも手軽に受講できる利便性と生徒一人一人にカスタマイズされた質の高いレッスンが好評です。→フランス語無料スカイプ体験レッスンはこちら メールマガジンであなたのフランス語学習をサポートする情報をお届けします。フランス語メールレッスン