4月20日(火)、現在新型コロナ感染第3波がピークに達しているフランスで、マクロン大統領は昨年11月から営業が禁止されているレストラン、カフェを予定通り5月中旬に「段階的に再開する」と発表しています。飲食業界では、本格的な営業再開に期待が募る一方、手放しで喜べない事情があります。
カフェやレストランの再開、待ち焦がれるフランス国民
フランスで飲食店の店内飲食が可能だったのは昨年1年のうち約半年、そして今年はまだ1日もありません。
利用者にとっては、カフェのテラスでゆっくりとカクテルを飲んだり、美味しい食事を友人や家族で楽しんだり、というコロナ禍以前の何気ない日常の楽しみの再開は、まるで夢が実現するかのようです。
5月から開ける?9月まで待つ?
飲食業界にとっても待ち望まれた営業再開ですが、現実はそう簡単ではなさそうです。
ホテル業連盟(UMIH: Union des métiers de l’hôtellerie)飲食店部門の代表ユベール・ジャン(Hubert Jan)氏は、「多くのレストランが9月の新学期まで営業再開を見送るのではないか」と見ています。
フランスには70万件のレストランがありますが、現在その内の半分が倒産の危機に晒されています。
高級レストランほど厳しい?観光客とビジネス客不在
パリ14区にあるレストラン「ラシエット」(l’Assiette)のシェフ、ダヴィッド・ラトジェベール(David Rathgeber)氏は、「再開の数週間後に倒産するぐらいなら、すぐに店を開けない」とコメントしています。
観光客の不在に加え、7月になると夏のバカンスで住民さえも街から消える首都パリでは、5月中旬に再開しても2ヶ月もすれば閑散期に入ってしまいます。
客の不在という中、材料費がかさむうえに仕込みに時間がかかる料理の準備を毎日行うと大赤字になるため、ラトジェベール氏の店では、ロックダウン中に始めた簡単な「ストリートフード」のテイクアウトをしばらく続けることにしています。
リヨン(Lyon)の星付きレストランのシェフ、クリスチャン・テットドワ(Christien Têtedois)氏は、1年前のロックダウン解除後すぐに再オープンして大赤字を出し、7月に慌てて閉店したという苦い経験から、今年は9月まで開けないと決めています。
一方、元々ピザなどの簡単な料理を出すチェーン店「ビッグマンマ」(Big Mamma)は、ロンドンで再開したパブやレストランに人が殺到している現象がフランスでも起こると見ており、オーナーは「観光客不在、テレワークで通勤客がいなくても、店は客で満杯になるだろう」と期待を寄せています。
テラス席だけで採算取れるのか?
5月中旬の飲食店再開で許可されるのは、屋外にあるテラス席のみです。店内飲食は6月12日以降に予定されています。
元々大都市の中級から高級のレストランは、店内飲食を前提にしているところがほとんどです。
ホテル業連盟のジャン氏も「ビーチ沿いなどのレストランならともかく、大都市のレストランは厳しい」とコメントしています。
昨年の夏も若者で賑わっていたのは住宅地にあるカフェや庶民的なレストランですが、中には「テラス席が6席しかない」という店もあります。
消えた10万人の従業員!?
ホテル業連盟によると、現在閉まっているレストランやホテルの従業員のうち約10万人が業界を離れたと見ています。
ウェイターやバーテンなどの中には、ロックダウンのおかげで家族と過ごす時間が持て、夜も家でゆっくり過ごせる幸せを味わい、異業種に転職した人や休業手当を貰い店と音信不通の人もいます。
リヨンのレストランシェフ、テットドワ氏は昨年の最初のロックダウンで「7人の従業員が退職した」と話しています。
ウェイターからコーチや葬儀屋に転身
46歳のクリストフ(Christophe)は、22年間レストランのウェイターやフロア長を務めた後、ロックダウンで休業中にスポーツコーチを始めました。
彼は「たった2000ユーロ(約26万円/1ユーロ=約130円)稼ぐのに平日も深夜まで、週末もないレストラン業界に戻る気はない」と話しています。
また彼の同僚には「警備員や葬儀屋」に転職した人もいます。いずれも楽な仕事ではありませんが、週末を家族と過ごす時間が取れることが決め手になったようです。
感染対策は十分か?
飲食店については、店内飲食の再開に向けても座席数を減らすだけでなく、店内における客や従業員同士の接触を減らすなど、感染対策はこれからも続きます。
昨年10人の従業員が感染した店のオーナーで50歳のジョセフ(Joseph)氏は、「ワクチンを接種するまで300席もあるうちの店には入らない」とコメントしています。
政府の援助はいつまで貰える?
経済省は「再開したからといって突然援助の打ち切りはしない」方針で、「援助は段階的に減らしていくが、再開後も続く赤字などの補填はしばらく続くだろう」と非公式にコメントしています。
但し、条件や期限、金額など具体的には何も決まっていません。
パリのレストランシェフ、ラトジェベール氏は「9月まで閉店しても援助がもらえることを期待」しています。
「援助が切れたら店を開けるしかなく、開けたら倒産まっしぐら」ですが「政府がそれを望んでいるとは思えない」とコメントしました。
執筆:マダム・カトウ