4月27日(火)、「馬力の強い車は時代遅れ」というコピーを提げ、フランス最大の自動車メーカー、ルノー(Renault)社は最高速度が時速180kmまでしか出ない車の販売を2022年より開始します。
最高速度を時速180kmに制限
ルノー社は現在最高速度200km以上のエンジンが搭載されている同社の車を180kmに制限すると発表、その第一号として、来年2022年からまずはハイブリッド車メガンE(Mégane-e)を新バージョンで生産販売します。
その動機について、ルカ・デ・メオ(Luca De Meo)社長は「交通事故の減少に貢献する」ためと宣言しています。
実はこの試みはルノー社が最初ではありません。
先駆者ボルボは「安全性」がモットー
2019年3月にスウェーデンのボルボ(Volvo)社が制限速度を180kmに制限した車を発表した時は、業界に大きな衝撃が走りました。
高級車ベンツやアウディ、BMWと客層が重なるボルボ社は(現在、中国のGeelyグループ)は。創業以来「安全第一」をモットーにしています。
同社社長のサミュエルソン(Samuelsson)氏は、当時「車自体の最高速度を下げることが交通事故防止対策の全てではないが、それによって一人でも命が救えたのであれば、成功と言えるだろう」とコメントしています。
同社によると、2019年当時メディアで騒がれ「人々の自由の侵害に当たる」というような報道まであったものの、販売には全く悪い影響を与えていません。
フランスの高速道路の制限速度は130km、事故防止効果はある?
大衆車が主力のルノー社による今回の発表は、同業他社には「単なるマーケティング戦略」、車愛好協会からは「大衆車で180km以上走っている車はそもそもない」などとあまり好意的でない評価も得ています。
交通事故防止協会のアンヌ・ラヴォー氏は、「180kmに制限したといっても、高速道路の制限速度より時速50kmも上回るのは免停に相当する違反です」と、ルノー社の「交通事故削減に貢献」にかなり懐疑的です。
高速道路、お隣のドイツは無制限
とはいえ、「国境を車で行き来できるお隣ドイツの高速の制限速度は無制限で、130kmまでを推奨に留まっており、時速200km、250kmで走る車をざらに見かけます。制限速度が国によって異なることから、販売する車の最高速度を一律130kmにするのは今のところ困難と言えます。
現在フランスの交通事故による死亡事故原因の1位はスピード違反(30%)で、2位の飲酒運転(18%)を大きく引き離しています。
《馬力の強い車》は時代遅れの象徴、企業イメージのリニューアル狙い
脱炭素や環境への取り組みが、株主の企業に対する評価や消費者へのイメージに大きく影響する時代になったことから、今回の発表でルノーは「速度や馬力といった要素は時代遅れの車」だけではなく、同社が次世代に向かっていることをアピールする狙いがあったようです。
中古車を電気自動車に作り変えるレトロフュチュール(Retrofuture)社の社長、アルノー・ピグニード(Arnaud Pigounides)氏は、「電気自動車の登場が業界を根底から覆してしまった」と話しています。
ソルボンヌ大学交通歴史専門家マチュー・フロノー(Mathieu Flonneau)氏は、「ルノーがある程度誠意を持って、企業の社会的および環境への責任を表明することは、一般大衆に評価されるだろう」と述べています。
消費者の優先順位は…価格、故障しない、デザイン
こういった自動車産業の取り組みを尻目に、新車選びに重視する要素は「価格、故障が少ない、デザイン」が相変わらず上位を占めており、「環境に優しい」は優先順位の「遥か下の方」に位置していることが、調査会社セテレム社(Cetelem)がフランスを含む10カ国以上で行った消費者動向調査で明らかになっています。
次世代は《自動運転》、交通事故はメーカーの責任?
次世代の車は「電気自動車」で「自動運転」が当たり前、そうなるともう運転はせずいかに「車内で有意義な時間を過ごすか?」が重要になっていきます。
安全性は車の性能にかかっており、ドライバーの運転技術が問題ではない、つまり「メーカーの責任」という時代が迫っています。
今回のルノー社の発表も「次世代型の車を作っていく宣言」で、最高速度を下げたことはその一環であると言えるでしょう。
執筆:マダム・カトウ