10月5日(火)、フランスの大統領官邸であるエリゼ宮(Le palais de l’Élysée)は昨日4日(月)、2021年のパリ最優秀バゲット賞に輝いたバゲットを購入しないと発表しました。この前例のない決定はメディアで話題になっています。
2021年最優秀バゲット賞、パリ12区のパン職人
パリのバゲットコンテストはパリ市が主催し、審査はパリのサンルイ島にあるパンお菓子職人協会(Chambre professionnelle des artisans boulangers-patissiers)によって行われ、職人、食専門のジャーナリスト、および抽選で当たった6人のパリ市民が数々のバゲットを試食して投票します。
「最優秀バゲット賞」を獲得したパン屋は、メダルと賞金4,000ユーロ(約516,000円/1ユーロ=約129円)のほか、1年間大統領官邸にバゲットを納品できるという大変名誉な「特権」を与えられることになっています。
今年この栄誉ある賞に輝いたパン職人はパリ12区(54 boulevard de Reuilly)でパン屋『ブーランジェ・ドゥ・ルイイー』(Boulangers de Reuilly)を経営するマクラム・アクルート(Makram Akrout)さんです。
発表の直後、エリゼ宮の広報担当は「おめでとうございます」とツイートし、今後1年間このバゲットを購入すると確約していましたが、昨日突然「受賞したパン屋から必ずしも購入するとは限らない」「このパン屋とは連絡をとっていない」と正反対の発言をしています。
SNSで炎上、「フランス批判」のパン屋に非難
チュニス・トリビューン(Tunis Tribune)という海外在住チュニジア人向けのメディアは9月27日、チュニジア生まれでフランスに帰化したアクルートさんのFacebook画面のコピーを掲載し、同氏が「フランスは植民地政策を継続し、我々をイスラム信仰から遠ざけようとしている」といった内容のアラビア語で書かれた「フランス批判の投稿をシェアしている」と報道しました。
これがSNS上で炎上しメディアを騒がせたことが月曜に行われたエリゼ宮の「取引しない」発表に繋がったようです。
これを受けアクルートさんは、「私のFacebookのアカウントがハッカーにより書き換えられている」と主張していました。しかしながら、後日アクルートさんの弁護士は「まあよく皆がやるように、彼も過去にはあまり深く考えずにいろんな投稿をシェアしたことがあるかもしれない」と遠回しに批判を認める発言をしています。
史上初、「パリ最高のバゲット」は市民だけの食卓に
パリ市の一等助役、エマニュエル・グレゴワール(Emmanuel Grégoire)氏は、先週土曜日に「(このパン職人が)たまたまこういった良からぬ表現をする人物だとすれば」と断定を避けた上で、大統領官邸への納品には「待ったがかかる」だろうとコメントしていました。
また、せっかく優勝したアクルートさんですが、受賞には自身で出向かず代理人に行かせています。
1994年から毎年開催されているこのコンテストで最優秀賞に選ばれたパン屋がエリゼ宮にバゲットを納品しないのは今回が初めてとなります。
残念ながら今年パリで最も美味しいバゲット・トラディション(昔ながらの製法で作られたバゲット)が大統領の食卓に出されることはなくなりましたが、12区の住民たちはパリで最高のバゲットを味わえることには変わりありません。
歴代の「パリ最優秀バゲット賞」受賞パン屋リストはこちら(フランス語)
執筆:マダム・カトウ