フランス 牛乳や食肉加工品から《原産地表記》が消える?

2021.06.25

エガリム法

6月25日(金)、食品平等法(エガリム:Egalim)と呼ばれる食品法(Loi Alimentation)改正のための議論が現在国会で行われています。2018年10月の施行当初から不備があると改正が叫ばれていましたが、逆に加工食品の原料の「原産地表記が消える」可能性が出てきました。

 

牛乳の価格下落、フランス酪農農家救済策だった「エガリム法」

エガリム法ができた当時、巨大スーパーチェーンと乳業メーカー側の値下げ圧力で、酪農農家に不利な契約を結ぶ慣習が横行し、農業従事者の生活苦による自殺が増えたことから、大規模なデモが多発していました。また、酪農農家の廃業が増え、本来禁止されている乳牛を安く精肉業者に販売するなどの食品スキャンダルも起こっていました。

生乳の卸価格が下落した要因は、健康ブームやアレルギーによる乳製品離れ、フランスの小規模農業政策が海外の大規模農業による価格の競争についていけなくなっているなど様々ですが、酪農農家の収入は年々先細っていました。

エガリム法の導入は、食品産業におけるスーパーなどの小売業者と食品メーカーと原材料を提供する農家の力関係に極力平等性をもたらすことを目的に作られました。

2018年の導入後、小売業者への卸価格は10%引き上げられ、同時に「消費者への販売価格が値上げされるだけではないか?」という非難が巻き起こっていましたが、当時の農業大臣は「販売業者がマージンを削るため値上げはされない」と発言していました。

 

フランス産の牛乳の方がベルギー産より「品質が良い」か?

今回の改正は法の不備を修正することが目的とされている一方、全ての改正が消費者に有利になるとは限りません。

スーパーで買ったお菓子に含まれるクリームの原産地、冷凍ピザに乗っているハムの原産地など、加工食品の主要原材料のうち、農産物、肉や魚、乳製品の原産地表記は現在エガリム法でも義務づけらています。

しかしながら、今回の改正案によると「その原産地と原材料の一部の成分との関係性が証明され、それが食品の安全性、ひいては消費者保護につながる」ことを証明しなければなりません。

平たくいうと、例えばヨーグルトの原材料に「フランス産の生乳を使用」と表記したければ、「北フランス、ノルマンディー産の牛乳がベルギー産の牛乳より健康により良い成分を含んでいる」といった証明が必要となります。

消費者保護団体、「時代錯誤」

消費者保護団体、ク・ショワジール(Que choisir ?)の代表、オリヴィエ・アンドロー(Olivier Andrault)氏は、今回の改正法案がセナ(上院)で可決されれば、「加工食品の原産地表記が消えて」しまい、「加工食品の原材料表記における透明性は失われる」と、懸念を表明しています。

更に、狂牛病に始まり、鶏肉からのダイオキシン検出、2013年の冷凍ラザニアに牛肉と称して使用された馬肉など、数々のスキャンダルを経て、年々食品の安全性や情報開示に対する消費者の関心が高まる中での「改悪」を「時代に逆行している」と痛烈に非難しています。

 

法改正の影に、巨大乳業メーカー?

年商210億ユーロ(約2兆7700億円/1ユーロ=約132円)、フランス一の乳業メーカーで世界の食品メーカーランキング18位の巨大企業、ラクタリス(Lactalis)社は、2016年に当時すでにフランスの政令で定められていた「乳製品や加工食品に使用する肉類の原産地表記はヨーロッパ法では違法」として、欧州司法裁判所に訴えを起こしていました。

数ヶ月前、欧州司法裁判所は同社の訴えを認めています。

では、原産地表記がなぜ同社に不利なのでしょうか?

ラクタリスの側の主張は「原産地表記は食品におけるナショナリズム(自国主義)を増長する」というものです。

同社はフランスで生産した牛乳の50%を輸出していますが、「フランス産」と書くことでフランスの消費者にはアピールできても、自国産の食品を好む他の国では逆にイメージダウンになるからです。例えば、イタリア人の消費者は当然「イタリア産」の牛乳を選ぶわけです。

 

メーカー主導に後戻り?

こういった動きから、今回の改正がメーカー側に有利に働き、消費者や生産者にしわ寄せが来ることが危惧されます。

消費者保護団体のアンドロー氏は、フランス国内で販売する食品のみ「フランス産」と原産地を表記するという解決策もあると主張しています。また、改正により海外からの安い牛乳を使用することで、フランスの農家がまた窮地に立たされるという意見も上がっています。

執筆:マダム・カトウ

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