パリ市内 自動車の制限速度が時速30kmに タクシー業者など非難の声

2021.08.31

パリ市内制限速度時速30キロに

8月31日(火)、パリ市内のほとんど全ての道路で、本日より車の走行速度が現在の時速50kmから30kmに制限されました。社会党のイダルゴ(Anne Hidalgo)市長の、2020年再選時の公約である「車の締め出し」は「歩行者の安全」や「環境」をスローガンに推進されましたが、パリ郊外からのマイカー通勤者やタクシー業者から非難の声が上がっています。

 

交通安全、騒音公害?車の締め出し歴然

イダルゴ市長は昨年の市長選でも再び「車減らし」を公約に掲げ、次々と実行に移しています。

既に2014年の就任以来、セーヌ川河岸の道路を歩行者専用とし、市内の路上駐車箇所を半減させ、自転車専用レーンをいたるところに作り、歩道の道幅を広げるなどして車道を大幅に減らしてきました。

パリ市の交通担当助役ダヴィッド・ベリアール(David Belliard)氏(ヨーロッパエコロジー・緑の党)は、「既に市内の60%の道路では時速30kmに制限されており、今日からその制限が拡大されたに過ぎない」こと、また導入には「市民5000人へのアンケートが行われ、うち63%が賛成だった」とコメントしています。

ベリアール氏は本日からの導入に関し、「高齢者や子供などの歩行者や自転車を守ると同時に、市内の騒音を減らすことができる」と述べています。制限速度が低くなると加速や減速の時にエンジンを蒸す騒音も削減できるというわけです。

パリ市が最終的に目指しているのは、制限速度を下げることで市内を車で移動する意味が無くなり、車を利用する人自体を減らすことです。

シャンゼリゼ大通りなど一部の大通り、環状線は例外

ちなみに、シャンゼリゼ大通り(Avenue des Champs-Élysées)など、パリの西および左岸の一部にある大通りは例外的に制限速度が現行の時速50kmのままになっています。例外リストはこちら

またパリを囲む環状道路は現行の時速70kmが維持されています。(ちなみにパリ市は50kmへの制限を目指しています)

 

ドライバーから非難轟々、交通事故は減らない?

これに対しドライバーは非難轟々です。

マイカー通勤のベルトラン(Bertrand)さんは、「交通事故削減だって?じゃあ、歩道を走る電動キックボード(時速20km、車道通行)が親子を跳ねた死亡事故に対して何か対策をとったのか?赤信号を無視して滅茶苦茶に走る自転車への対策はとっていないじゃないか?」と怒りを隠せない様子です。

 

タクシー料金は値上げになるのか?

今回の制限で経済的に大きな打撃を受けるのは、タクシー業界です。

パリタクシー組合の委員長、ムッシーヌ・ベラータ(Mouhssine Berrata)氏は、今回の導入に関し「時速30km以下で走行した場合一回の走行にかかる時間が長くなるため、1日に運べる客数が減る」と嘆いています。

パリのタクシー運転手の1日の労働時間は、自営業の場合で11時間、タクシー会社の社員で10時間までと決まっています。

また、現行のタクシー料金は、通常走った距離に課金される仕組みになっていますが、時速30km未満で走る場合は料金が「時間制」に変わります。これは渋滞などに対応するためです。

ヌーボータクシーパリジャン社(Nouveaux Taxis)の責任者ジャン・バレイラ(Jean Barreira)氏は、市内ほとんどの場所で時速30km未満で走る場合、距離に対する課金がないため「現在の売り上げの40%を失う」と予測しています。

今の所値上げは検討されていませんが、バレイラ氏は当局にタクシー料金ルールの変更を申し出るつもりです。

 

「市長、水漏れの時は傘をさして待っていろ」職人や商店からも非難

パリ職人商店連盟(Fédération des associations de commerçants et artisans de Paris)会長のティエリー・ヴェロン(Thierry Véron)氏は、「イダルゴ市長のアパートの上の階で水漏れがあっても配管工はすぐに到着しないから、傘をさして待ってもらうしかないな」と、皮肉込めた怒りをぶちまけています。

パリ20区の配管工バンジャマン・アッティア(Benjamin Attia)氏は、「パリの実質平均速度が時速15kmだったとしても、今までは時速50kmで走ることも多かった」とコメントしています。さらに、渋滞が多く移動にかかる時間がただでさえ長いパリ市内で今後仕事をするのは「いよいよ割に合わない」と悲観しています。

またパリ市内の商店では車で来る「郊外からの買い物客が減る」ことが危惧されています。

フランス商店組合(confédération des commerçants de France)の会長フランシス・パロンビ(Francis Palombi)氏は「(イダルゴ市長に)車は消せないが、商店は消えてなくなるかもしれない」とコメントしています。

 

パリの大気汚染は…【改悪】

環境問題への取り組みをアピールするパリ市ですが、「大気汚染」の観点からは制限速度を減速しても「大気汚染の改善にはならない」ようです。

大気汚染を監視する非営利団体レスピール(Respire)の会長、トニー・レニュッキ(Tony Renucci)氏によると、「ゆっくり走るほど公害が酷くなる」ことがわかっています。

執筆:マダム・カトウ

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