2025年5月16日(金)、今年も14日よりカンヌ国際映画祭(Festival de Cannes)が開催されています。会場となっているカンヌのパレ・デ・コングレ(Palais des Congrès)の入り口には長い赤絨毯が敷かれ、映画スターや監督たちは、その脇に集まった多数のカメラマンの前でポーズをとりながら会場に入っていきます。カンヌ映画祭のシンボルともいえるこの長い赤絨毯、映画祭終了後には一体どうなるのでしょうか?
カンヌ映画祭、そのそもなぜ赤い絨毯?
赤い絨毯は「プレステージ」を意味し、栄誉を称えたり、敬意を表するときに使用するのは現在では当たり前になっています。
よって、カンヌ映画祭でも赤い絨毯を敷くのはなんの不思議もありませんが、そもそもなぜ「赤」なのでしょうか?
古代に貴重だった緋色
実は「赤」色の使用は古代にさかのぼります。
当時は現在のような赤色はなく、フェニキア人がホネ貝からとった紫や緋色の染料が使われていました。地中海にでて貝を獲る作業も含め、この染料を作るのは大変手間であったことから「緋色」は希少で高価な色でした。
そのためこの色は次第に「富」「権力」「高級」を象徴するようになりました。たとえば、330年につくられた東ローマ帝国の首都、コンスタンチノープルに作られた皇帝の部屋全体はこの緋色に塗られていました。
赤い絨毯、19世紀アメリカで登場
赤絨毯が最初に使用されたのはアメリカで、1821年、当時の大統領ジェームス・モンローがサウスカロライナを公式訪問した時にさかのぼります。
映画祭のシンボル「赤絨毯」が「華やかさ」の象徴に
カンヌ映画祭の赤絨毯は、初回の1946年から20年経った1960年半ばにはじめて登場しています。主催者側は他のフェスティバルと差をつけ、この赤い絨毯を「プレスティージ」や「ラグジュアリー」「華やかさ」の象徴にする狙いがあったようです。
現在使用されている赤絨毯は全長60メートル、クロワゼット大通り(Boulevard de la Croisette, “La Croisette”)から始まり、映画祭会場の入り口にある24段の階段を覆って、招待客らを会場内へと導きます。
1日3回交換されていた、カンヌ映画祭の赤絨毯
この絨毯を常に「完璧」な状態に保つように、実は長年にわたり、映画祭開催期間中の12日間は1日3回交換されていました。
しかし、2021年からは「環境保護」を目的として、その交換回数が1回だけになりました。
「使い捨て」だった大量のカンヌの赤絨毯、再利用に
2021年以降、カンヌ映画祭で使用された赤絨毯は、南仏マルセイユ(Marseille)にある非営利団体「ラ・レゼーヴ・デザール」(La Réserve des arts)に寄付され、映画撮影用のセットにカーテンや車の中敷きとして、もしくは様々な式典などに再利用されています。
「ラ・レゼーブ・デザール」は、2008年パリで設立、ファッションショー、フェスティバル、演劇や映画などの文化活動に使用された資材、セットやコスチュームを回収し、再利用できる状態にして販売しています。
アートが排出する大量のゴミ、再利用資材をお金のないアーティストに販売
団体のジャンヌ・レ(Jeanne Ré)氏はその活動について、「アートはたくさんの資材を使用し、多くのゴミを排出します。一方、アーティストたちの多くはお金がないのです。私たちは捨てられる資材と安価な資材を必要とする人の仲介をしています」と説明しています。
今年も3〜4トンの赤絨毯、カンヌ映画祭から回収予定
2020年、この社員たった5人の非営利団体は、カンヌ映画祭という「大口の客」をつかみます。
映画祭から回収された絨毯は、スターの輝きとは程遠く、足跡やたばこの焼け跡やところどころに穴が開いています。運ばれた絨毯の山にネズミの死骸が混ざっていたこともあります。
これを3〜4人のスタッフが約3週間かけて、掃除したり切ったり測ったりして販売できるように整えます。
2024年に再販売品に整えられた中古の赤絨毯は、全部で1キロメートルほど、重さは約2トンで、1キログラムあたり34セント(約56円/1ユーロ=約164円)で販売されました。
再販売の際には、カンヌ映画祭のロゴなどはすべて取り外され、他の絨毯と同様に一般的な商品として販売されます。
そのため、「カンヌ映画祭の赤絨毯の切れ端売ります」などという広告をみかけたら、詐欺の可能性ありなのでご注意ください。
執筆:マダム・カトウ