4月29日(金)、パリ郊外の農家で人間の尿を肥料にした小麦づくりの実験が行われ好結果がでています。その昔、農家は肥料に人糞を使うのが当たり前でしたが、いつの間にか化学肥料に取って代わられています。農業研究者たちは環境保全の観点から、化学肥料の代替えの研究を進めてきましたが、ロシアのウクライナ侵攻により化学肥料価格が3倍に高騰していることもあり、昔ながらの農業回帰が一層注目されています。
「畑でおしっこして来なさい!」おばあちゃんの知恵がヒント
パリから約18キロ南に位置するエッソンヌ(Essonne)県サクレー(Saclay)村で、フランス農業会議所主導により研究者たちが実験を行なっています。
4月25日、プロジェクトの担当者ルシー・バロン(Lucie Baron)氏は、プラスチックの容器に入っている尿を肥料散布機に注入していました。中に入っているのは茶色にくすんだ液体で、週末に行われたミュージックフェスティバルの際に回収した尿が入っています。
散布機を運転するのは地元の小麦農家のエマニュエル・ロロー(Emmanuel Laureau)氏で、小麦の芽に液体を散布しています。
このプロジェクトに賛同するロロー氏は、人間の尿には窒素をはじめとする、農作物に必要な栄養素がふんだんに含まれているにもかかわらず、現状「浄水場に流され蒸発し、無駄になって」いるので、これを「農作物の肥料に使わない手はない」と語っています。
尿を肥料に小麦を育てる農家、パリのバーに尿回収用のトイレを設置(1:24)
農作物に必要な栄養素の大半が尿に含まれる
農作物の成長に必要な栄養素は「窒素、リン、カリウム」ですが、私たちはこれらを「食べ物から摂取して体内に取り入れ、排泄によって体の外に出しますが、ほとんどが尿として出て行きます」と説明するのは、エコール・デ・ポン・パリテック(École des Ponts ParisTech)で食品および排泄物の再利用を研究するファビアン・エスキュイエール(Fabien Esculier)氏です。
化学肥料、使いすぎで土壌汚染、ウクライナ侵攻で価格高騰
そもそも、昔は人糞を肥溜めに入れて畑にまいて肥料にしていたわけですが、「同じ畑でより多くの収穫を上げる」という効率の良さからいつの間にか化学肥料にシフトしてしまいました。
「確かに化学肥料の利用で収穫率は上がるかもしれませんが、使いすぎると土地や河川水を汚染してしまうなどの弊害もあります。しかも、化学肥料の価格は上がる一方で、特にロシアのウクライナ侵攻でさらに高騰しています」と、同氏は説明しています。
尿でも化学肥料でも、品質は「ほぼ同じ」
2年前に行われた最初の実験では、尿を肥料にした畑の一部と化学肥料を利用した残りの畑を比較しています。
その結果、尿を散布して育てた小麦は、通常の肥料を用いた小麦と比べても「全く遜色なく」成長し、収穫した小麦は「ほぼ同じぐらい品質の良いものだった」と、農業会議所イル=ド=フランス経済圏(Ile-de-France)の責任者クリストフ・ディオン( Christophe Dion)氏は述べています。
課題は、尿をどうやって回収するか?
「畑からもらった栄養素を畑に返す」というこのプロジェクト、エコロジーやサーキュラーエコノミー(循環経済)の観点から見ても非の打ち所がありませんが、一つ大きな問題があります。
現在普及しているトイレはほぼ全てが水洗のため、流された尿はそのまま下水道に送られてしまいます。
よって、流される前に尿を回収するための「仕組み」を構築することが必要になります。
「水洗トイレ」自体の見直しが必要
さらに、水洗トイレから水を全く使わない「バイオトイレ」にシフトしていく必要もあります。
排泄物の農業への再利用プロジェクトのメンバー、マリーヌ・ルグラン(Marine Legrand)氏は、「バイオトイレは不便だとか、かっこ悪いとか、匂いが気になるといった否定的な意見が多い」ことを解決していかなくてはならないとしつつも、「飲料水がどれだけ貴重なのかを理解してもらう必要がある」と言います。
フランス人、「尿」で育てた農作物「食べてもいいかも…」
もう一つの問題は、人々が尿を撒いて育てた農作物を食べたいかということです。
ある研究で国ごとに調査を行ったところ、中国、フランス、ウガンダでは前向きな人の割合が高く、拒絶反応を起こしているのはポルトガルやヨルダンなどでした。
「貴重な水に、いまだに排泄物を流し続けるなんて言語同断」というルグラン氏ですが、まだまだハードルは高そうです。
執筆:マダム・カトウ