フランス バカンスシーズン開始 南仏の観光地「温暖化」で対応迫られ

2023.07.07

フランス バカンスシーズン開始、温暖化で南仏の観光業は対応迫られる2023年7月7日(金)、フランスは明日から全国一斉に夏休みに突入、本日午後からパリから地方へ行く道路は混雑します。南仏の観光地は夏は大量に訪れる行楽客で賑わいますが、同時に温暖化の影響ですでに干ばつが発生しており、山火事も発生しやすく対応を迫られています。

 

パリ、イル=ド=フランスからバカンス客、南へ

本日の渋滞予報は「赤」、特にパリからリヨン経由で南下する高速道A6が混雑します。

宿泊費などが高い8月を避けるためか、混雑回避か、今年は7月上旬からバカンスを取る人が多いようです。本格的には来週、パリ祭の7月14日を境に、パリから徐々にパリジャンが減り、海外からの観光客と入れ替わります。

 

水不足の行楽地に大量のバカンス客

夏のバカンスといえば南仏、太陽と青い海を求め南を目指すのが定番とされていました。

こうして長い間バカンス客で潤って来た南仏ですが、ここ2−3年で顕著になった温暖化の影響で、夏のハイシーズンの観光施設の運営は年々ややこしくなっています。

南仏に限らず、今年は年初から干ばつによる水不足から給水制限が続く自治体もある中、大量のバカンス客が訪れる夏休みを迎えます。

南西フランス、スペインと国境を接するピレネー=オリアンタル(Pyrénées-Orientales)県では、すでに個人宅のプールに水をはることは禁止されています。

ホテルや公共施設では許可されていますが、ジャクジーやスパの使用は、大量に出る排水の再利用設備の導入という条件付きです。

 

温暖化時代のツーリズム「元年」

同県の風光明媚な観光地、バニュール=シュール=メール(Banyuls-sur-Mer)の4ツ星ホテル、スパ エルム(hôtel-spa des Elmes)のオーナー、セナック氏(Brice Sannac)は、給水制限に備え、1万ユーロ(約157万円/1ユーロ=157円)を投じてスパで利用した水をフィルターでろ過して再利用する設備を導入しました。

ホテルのプールは夜間ビニールシートを被せて水の蒸発を防ぎ、業務用洗濯機の水の使用量を制限するなど「一滴も無駄にしない」という徹底した節水対策をとっています。

ホテル業を営むにはDIYの能力が不可欠、と語る30代のオーナーは、環境に配慮してホテルの窓には雨戸ではなく空気や光を通す鎧戸をつけ、木陰を作るための植木には水をあまり必要としない品種を選びました。

ピレネー=オリエンタル県ホテル業連盟の会長も務めるセナック氏は、こういったホテル業界が「避けて通れない」温暖化への対応に不満を持つ人もいるものの、「大多数の業界関係者達は、適応して行くことに同意している」と述べています。

各々の些細な努力は、限られた水を賢く利用するための「戦い」に貢献する、と言う同氏は、今年を温暖化時代の観光業「元年」と命名しました。

 

飲料水をトイレに利用するのは「言語道断」

セナック氏は、こうした各ホテルの節水対策だけでは「不十分」で、ピレネー=オリエンタル県や国が資金を出して処理水をトイレなどに再利用する仕組みを作ることが必要だと訴えています。

同県ではすでにプールやスパの処理水の再利用、例えば道路の清掃用水などが協議されています。

ペルピニャン(Perpignan)の北にあるキャンプ場は、今年の5月、プールに溜まった水を消防隊に寄付しています。

本来法律では禁止されているこういった行為も、今後「有効な再利用策」として広まると見られています。

 

水不足でウォータースポーツに打撃

南東フランス、ドローム県(Drôme)のあるキャンプ場は川がすぐそばにあり、宿泊客の間でカヌーが人気でした、

干ばつで川の水位が低くなるとカヌーで行くことができるルートが減り、毎年数名いたカヌーツアーの運営は今年はたった一人の従業員で行っています。

当然、カヌーによる収入は激減、キャンプ場の運営に影を落としています。オーナーは「夏の水位がどうなるかを事前に把握することが困難」なことが運営をより厳しいものにしていると語っています。

オート=アルプ(Hautes-Alpes)地方のセール・ポンソン湖(lac de Serre-Ponçon)では、湖の水位が下がり、ウォータースポーツのレンタル業者などに打撃を与えています。

塩田で有名な南仏カマルグ自然公園(Parc naturel de Camargue)では、蚊の大量発生、森林の害虫被害のみならず、日陰の気温が40℃を超えたらそもそも昼間は外出できない、といった問題も懸念されています。

 

「夏はハイシーズン」は終わったか?

アルプスの名峰モンブラン(Mont Blanc)やマッターホルン(Cervin)の高山ガイドたちは、ここ数年「モンブランに登頂します」と保証することができないため、「モンブランを味わいに行こう」という表現を使います。

高山ガイド協会のメンバーで地層学者の ラヴァネル(Ravanel)氏によると、天気など条件が良ければ登頂することは可能ですが、8月のピークの10日から15日の間に登れる保証ができるガイドは一人もいないようです。

年々氷河や万年雪が溶けて落石や雪崩が耐えないモンブラン、夏の登山は年々危険を増しています。

これからの夏は「海より山」、19世紀に戻る

とはいえ、暑すぎる海岸沿いを避け、昨年から山に向かうバカンス客が増える傾向にあります。

ポー(Pau)大学で教鞭をとる地理学者クラリモン(Clarimont)教授は、現在のフランスで定着している「夏は海水浴にいき、冬は山でスキー」は実は20世紀以降の傾向だと言います。

それ以前、19世紀、富裕層だけに限られていたバカンスは「夏は山、冬は海」が定番でした。

気候に合わせざるをえなくなったこれからのバカンス、「徐々に昔の傾向にもどっていくことになるでしょう」と同氏は予測しています。

執筆:マダム・カトウ

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