2023年7月4日(火)、フランスでは今年も夏のソルド(Soldes)が始まっています。ソルドは年2回、全国一斉に開始されるバーゲンセールですが、日本などの他国とは違い、フランスの「ソルド」は法律でルールが決められています。近年のファストファッションの台頭で年々衣料の値段は下がる一方ですが、溜まる在庫の処分に新たな「手法」が注目されています。
そもそも「ソルド」って何?
日本でもバーゲンセールに「Soldes ソルド」という単語が使われているのを見かけることがありますが、フランスでは商店やデパートが独自のセールに勝手に使用することはできず、日常的なちょっとした割引は「プロモーション」(promotion)と呼ばれています。
ソルドは冬と夏の年二回、政府が決めた日付から4週間行われるバーゲンセールのことです。
「法定」の開始時期
冬のソルドは毎年1月の第二水曜日、但しこの日が12日以降なら第一水曜日、夏のソルドは6月最後の水曜日、但しこの日が28日以降ならその一週前の水曜日の、いずれも朝8時から開始されます。
赤字販売が唯一可能なセール期間
ソルドの最大の特徴は、この期間だけは商店は在庫処分のための「赤字販売」が許可されている事です。商品によっては「採算を度外視した」破格の買い物ができることが消費者に「保証」されていることになります。
ソルド期間以外に特別なセールを行うことは可能ですが、その場合「ソルド」とは呼べないため、クリスマス前のセールは「ブラックフライデー」、会員などセレクトな顧客のみに売るプライベートセールは「ヴォント・プリヴェ」(ventes privées)、フレンチ・デイズ(French Days)など、新しい名称やコンセプトのセールが台頭しています。
今年のトレンド「アーカイブ」とは?
長い間、在庫一掃を「ソルド」に頼ってきたファッション業界も、ファストファッションによるコレクションの回転の速さと低価格化で、法律に縛られたソルドだけでは年々蓄積する在庫を処分することができません。
そこで今注目されているのが、フランス語で「アーシーヴ 」(archives)、つまりアーカイブというコンセプトです。
アーカイブというと、図書館においてある古い蔵書や資料のイメージですが、この場合のアーカイブは、その商品が作られた年の流行りを代表するような商品を指しています。
言い換えると「古いコレクション」を破格の料金で売るわけです。
ブランドのファン向け
このアーカイブの販売は、プレタポルテからラグジュアリーにいたるまで広まり初めています。
特にデザイナーズブランドは、ブランドのファン向けに商品を絞り込み、非常に短い期間、ソルドなどの時期とは別の時期に「イベント」のような形で行い、特別感を演出して販売しています。
販売された商品の中には、「これって着れるのかしら」と思いたくなる、博物館に展示してもいいようなものもあります。
ソルドから「アーカイブ」へ、在庫減らしに新手法
ラグジュアリーに限らず、プレタポルテのブランドもソルドから「アーカイブ」に移行する動きがあります。
レディースファッションのセザンヌ(Sézane)は、オンラインショップで今週から「夏のアーカイヴ」と称して前年のコレクションを30%から40%引きで販売しています。
同社は2017年から前年までの在庫をオンラインで販売していますが、長い期間商品を掲載し在庫を破棄せずに減らすことに成功しています。
同社のナタリー・ファージェオン(Nathalie Fargeon)はソルドをやめたもう一つの理由について、「弊社は3月から5月にかけて春夏物のコレクションを出しているため」、6月末というソルドの日付自体も無意味だと説明しています。
なぜなら、定価で買ったお客さんが2週間後に同じ商品が50%引きで売られているのを見たら、「騙されたと思いますよね?」。
「値下げ」より「やさしい価格」
もう一つのトレンドは、セールに使われる用語の「ポジテイブ化」です。
これまでは在庫をさばくための割引販売には、「値下げ」(démarques )「大安売り=ソルド」、「在庫一掃」(déstockage)などどちらかというと「価値の低い」印象を与える単語ばかりが使われてきました。
この在庫に光を当て、「値下げ」の代わりに「とってもやさしい価格」(prix tout doux)、「お買い得」(bonnes affaires)は「宝探し」(chasse au trésor)、売れ残りは「アイコニック(象徴的)な商品」(pièces iconiques)と命名されるなど、ポジティヴで「特別感」を出す表現を使うことが新しいマーケティングの手法として注目されています。
セール時期も、ニュースレターで突然案内されるなど、一般大衆向けのソルドと差別化され、ブランドのファンの定着を促します。
ここ数年、フランスでも環境に最も悪いゴミとして衣料品が挙げられ、ファッション業界のあり方が問題視される中、「ソルド」一辺倒から新たな道を切り開いて欲しいところです。
執筆:マダム・カトウ