2025年2月28日(金)、フランスには毎年、観光や仕事など様々な理由で何百万人もの外国人が訪れています。コロナ禍前のピークである2019年の水準にはまだ達していないものの、訪問者数はほぼ回復し、増加し続けています。
2023年と2024年のフランスビザ発給数ランキング(上位15か国)によると、一位は圧倒的に中国、2位を倍以上の発給数で大きく引き離しています。2位、3位はフランスと歴史的に関係が深いモロッコ、アルジェリアといった北アフリカの国々が続きます。しかし、最近アルジェリアとの間に緊張が生じ、ビザの条件見直しが議論されています。
中国、モロッコ、アルジェリア、上位15か国で全ビザ発給数の78%
フランス入国のためのビザ発給数が最も多いのは中国で、2024年には約56万件が発給されました。コロナ禍からの回復が遅かった中国ですが、昨年の発給数は前年対比で50%も増加しています。
2位はモロッコ、3位はアルジェリアとフランスの旧植民地だった北アフリカの2か国となっています。
2024年フランスビザ発給数ランキング
※(カッコ)内は前年の数と順位
1位 中国 562,000件 (1位:372,000件)
2位 モロッコ 283,000件(2位:241,000件)
3位 アルジェリア 250,000件(4位:210,000件)
4位 インド 238,000件 (3位:214,000件)
5位 サウジアラビア 154,000件 (7位:110,000件)
6位 トルコ 142,000件 (5位:131,000件)
7位 ロシア 141,000件 (6位:116,000件)
8位 チュニジア 108,142件 (8位:98,000件)
9位 レバノン 58,000件 (9位:60,000件)
10位 フィリピン 51,000件 (10位:55,000件)
11位 インドネシア 50,000件
12位 エジプト 47,000件 (12位:43,000件)
13位 コートジボワール 45,000件 (14位:42,000件)
14位 ベトナム 45,000件 (15位:37,000件)
15位 タイ 40,000件 (11位:44,000件)
※2023年、南アフリカ(13位:42,000件)(ラグビーW杯がフランスで開催され南アが優勝)
これらの発給数はほとんどが短期ビザで、長期ビザの発給は全体のわずか10%にすぎません。また、ビザ発給数の上位国はほぼ毎年同じ国々であることがわかります。
アルジェリアとの関係悪化、滞在許可の条件見直しか?
フランスは北アフリカのモロッコ、アルジェリア、チュニジアの旧植民地国と現在も深い関係にあり、それが先述のビザ発給数にも表れています。
特にアルジェリアに関して、フランスはアルジェリア独立戦争後の1968年に、アルジェリア国籍に対しフランスにおける移動の自由や居住をみとめ、さらに年間35,000人を上限とする労働者の受け入れを認める協定を締結しています。
当時、一般的な外国人はまず滞在許可(Carte de séjour)を取得し、5年滞在したのち様々な条件をクリアした上で、ようやく10年有効の長期居住許可(Carte de résidence)の申請が認められています。
一方、アルジェリア国籍の人はこれとは別にCRA(Certificat de résidence pour Algérien)と呼ばれる特別な居住許可証を取得することができ、仕事さえあれば5年の滞在が認められ、3年滞在すれば10年カードへの切り替えができていました。
また、10年カードを持つアルジェリア国籍の人が家族を呼び寄せる場合、家族にも最初から10年有効のこの特別な許可証が発給されていました。
その後、この特別な条件は徐々に厳しくされ、1985年にはアルジェリア国籍に対し入国ビザが必須に、2001年には特権の一部が破棄されるなど、徐々に他の国籍の外国人への条件に近づいています。
ちなみに2023年、61万5000件のCRAが発給されています。
テロ分子の扱いをめぐり、アルジェリア政府と対立
今月22日(土)、フランス東部ミュールーズ(Mulhouse)で通行人を切りつけ死者1名、複数のケガ人を出した事件が発生、犯人の男はアルジェリア国籍の不法滞在者でした。
この男を含め仏警察が国内の治安維持を脅かす「テロ分子」としてマークし、国外退去を命じた人物の受け入れをめぐって、現在両国間で緊張が発生しています。
先週の事件を機に、フランス国会ではアルジェリア国籍に対する1968年のビザ優遇制度の抜本的な見直しをめぐる議論が開始されていますが、アルジェリア政府はこれに対し不服の意を表明しています。
医薬品や車をはじめ、アフリカ大陸におけるフランス最大の輸入国との対応に苦慮するフランス政府の動向が今後注目されます。
執筆:マダム・カトウ