2024年9月24日(火)、中道右派、共和党の新首相ミッシェル・バルニエ首相の内閣メンバー39名が発表されました。5日の首相任命から20日近く、国民議会選から実に2か月も経過した新内閣成立、選挙で敗退した与党による前内閣の閣僚10人が留任する一方、経済相など主要閣僚に無名の議員を抜擢しています。10月初旬の来年度予算の確定まで異例の遅れをとっており、財政赤字の是正などの急務が待っています。
新内閣の顔ぶれは
政府の重要ポストのうち、前内閣からの留任、もしくはマクロン政権下ですでに大臣経験者は、下記の4名を含む9名です。
カトリーヌ・ヴォ―トラン(Catherine Vautrin)与党中道連合、ルネッサンス党:フランス地方連携相
セバスチャン・ルコルニュ(Sébastien Lecornu)ルネッサンス党:国防相(Ministre des armées et des anciens combattants)
ジャン=ノエル・バロ(Jean-Noël Barrot)中道モデム党:ヨーロッパ・外務相(Ministre de l’Europe et des affaires étrangères)
ラシダ・ダティ(Rachida Dati)元共和党:文化大臣(Ministre de la culture et du patrimoine)
三分断の国会、右派色強く、内務相に強硬派のルタイヨー氏
バルニエ首相が所属する保守共和党からも10人が入閣していますが、注目されるのは、内務大臣に就任したブリュノ・ルタイヨ―(Bruno Retailleau)氏、共和党の中でもカトリック信者で保守強硬派として知られています。
弱冠33歳の最年少で大臣となった、与党のアントワーヌ・アルマン(Antoine Armand)氏が経済・財務相に起用され、最重要課題の予算編成に取り組みます
「負け組クラブ」と非難
国民議会選で最も得票が多かった左派連合(Nouveau Front populaire:NFP)、3位の極右(国民連合:Rassemblement national(RN)は、わずか46議席しか獲得できなかったバルニエ内閣を「正当性がない」とし、閣僚輩出を拒否しています。
マクロン大統領のルネッサンス党(Renaissance)を含む、中道連合アンサンブル!(Ensemble !)党は左派連合に負け、過半数を取れなかったにもかかわらず、同党からの多数の大臣起用を左派連合は激く非難しています。
新内閣に「著名政治家」不在、「吉」とでるか「凶」と出るか
ようやく発表された新内閣メンバーには、マクロン政権で長く経済相だったブリュノ・ルメール(Bruno Le Maire)、内務大臣だったジェラール・ダルマナン(Gérald Darmanin)、教育相、首相を務めたガブリエル・アタル(Macron. Avec Gabriel)のような地名度の高い政治家の名前がありません。
「凶」、有名人不在の政府、国民からの支持に悪影響
パリ・サクレ政治学院教授のモレル(Benjamin Morel)氏は、「凶」と出る理由として、知名度の低い大臣がテレビで政策を語っても有権者の心に響かないため、有名政治家の不在が世論調査での支持率の低下につながることが考えられると指摘します。
実際、調査会社Ifop社が9月に行った政治家の好感度調査で、サルコジ政権で大臣を務めたことで知られる元共和党のラシダ・ダティ氏が好感度48%で唯一5位に入った以外、今回入閣した大臣でトップ20に入ったのは前内閣から国防相留任のセバスチャン・ルコルニュ氏のみ、トップ50で見ても名前が入っている大臣は3人だけです。
移民問題などの重要課題に、国会での強い政治力、説得力、調整力がない
過半数がない内閣では野党の反発が強い政策は可決されず、さらに共和党出身で大臣経験のない閣僚が与党ルネッサンス党の元大臣経験者など、重鎮たちとの調整に苦慮する可能性が大きくなります。
「吉」、大統領選ねらう大臣排除で野党の反発軽減か?
「吉」と出る場合、2022年からマクロン大統領の後釜を狙っているといわれるアタル前首相、ブリュノ・ルメール前経済相、エドワール・フィリップ元首相、さらに27年大統領選を狙い今回大臣職を辞退した共和党ローラン・ヴォキエ(Laurent Wauquiez)氏など、野心家のエゴの調整に煩わされないことです。
ブレグジットの欧州側の交渉人として国民に知られるバルニエ首相は、こういったエゴの集まりが引き起こす内輪揉めから来る内閣の弱体化を危惧し、大統領選への出馬を狙う議員の入閣を避け、自らが強い指導力を発揮していける可能性を秘めています。
どのみち来年度予算を可決するための「仮政府」
無名大臣の起用で「吉」とでるもう一つの理由としてモレル氏が挙げるのは、そもそも今回のバルニエ内閣はいずれにしても、2025年度予算案を来年1月までに可決させるための「仮のもの」だということです。
バルニエ首相は、出演したテレビ番組で、「私が(新政府の政策について)口を開く前から、内閣不信任案を提出すると皆が息巻いている」と述べています。
その点、国会では野心的な大臣に対し野党が過剰反応し、無意味に反発することを避けられるのではないか、とモレル氏は見ています。
執筆:マダム・カトウ