2024年８月30日（金）、パラリンピックが28日に開会しました。11日に閉会したオリンピックと合わせ、大会期間中、フランス国内はもとより世界中から何らかの障害を持つ観客が約35万人が訪れています。美しい景観では世界１、２位を争うパリの街ですが、バリアフリーではかなり遅れをとっているようです。
パリ市内交通の要、メトロは車いすでは乗れない
パリ市がオリンピック開催地に立候補した際、選考の条件には車いすや視覚聴覚障害などを持つ観客も含め、公共交通機関を利用できるようにすることを強調していました。
確かに多くの対策が取られました。横断歩道で音が出る仕組みは既存の10,400機に加え、大会前に2,500を追加、さらに一部の信号にリモコンで音が出るような仕組みが新たに追加されました。
バスに関しては、2,200万ユーロ（約35億円／１ユーロ＝約160円）を投じ、全61路線のうち59路線がバリアフリー対応できるようになっています。
開通100年超パリ地下鉄、車いす対応わずか９％、ロンドンの半分
パリ市内の移動に欠かせないパリ地下鉄ですが、エスカレーターすらない駅がほどんどです。
パリに地下鉄が最初に開通したのは1900年7月19日、現在の１号線が西のポルト・マイヨ（Porte Maillot）と東の郊外ヴァンセンヌ（Porte de Vincennes）を往復していました。
それから124年たった現在、市内でバリアフリー対応が全部もしくは一部できている駅はわずか29駅、これは全駅数のわずか９％にすぎません。
路線でいうと、全14路線のうち、パリで最も最近作られた14号線、および最近延長工事が終わった11番線のうち、新しく開通した数駅のみです。
ちなみに1863年に最初の路線が開通した世界最古のロンドン地下鉄は、2012年のロンドン五輪時点でも18％の駅がバリアフリー対応していました。しかもロンドンの地下鉄はパリよりずっと深いのです。
あるけど動かないエレベーター、ホームページで故障状況案内
健常者でも大きなスーツケースを持っていると悪態をちきたくなるエスカレーターの故障、パリでは日常茶飯事ですが、高齢者、妊婦、ベビーカーの利用者にはたまったものではありません。
車いすとなると、エレベーターの故障は致命的、電車での移動をあきらめなくてはなりません。
非営利団体、ツーリズム＆ハンディキャップ（Tourisme & Handicaps）の代表、アネット・マッソン（Annette Masson）氏は「エレベーターの故障が多く、修理に何日もかかる」と嘆いています。
パリ及び郊外交通を管轄する、イル＝ド＝フランス・モビリテ（Ile-de-France Mobilités：IDFM）公社のデータによると、パリ五輪の真っ只中、８月２日の時点でも全体の９％が故障していました。
そのため同社は自社のホームページやアプリで、駅のエレベーターの故障状況まで案内しています。
駅の待ち時間案内、社内の音声案内改善だが
確かに今年に入り駅のホームで待ち時間の掲示板が大きくなり、幾分わかりやすくなりました。
さらに66％の車両内では音声による駅の案内、48％には液晶掲示板による案内がありますが、これが100％になるのは、古い車両の入れ替え時期を待たなくてはならず、ずいぶん先のことになりそうです。
郊外列車、バリアフリーの半分は「要予約」の人海戦術
パリ五輪の一部の会場にアクセスするための、RERやTransilienといった郊外列車に関して、2015年より20憶ユーロ（約3,216億円）を投じ、「240駅がバリアフリーになった」とイル＝ド＝フランス・モビリテのローラン・プロブスト（Laurent Probst）氏は大会前のインタビューで誇示していました。
ただ、実際に設備が整っているのはその50％ほど、残りの駅では駅スタッフのサポートを事前に予約しなくてはなりません。これに関してマッソン氏は、地元の利用者ならまだしも「観光で訪れる人、特に海外からの観光客にはハードルが高い」とコメントしています。
観光客はこんなに多いのに、車いすの利用者をほとんど見かけないパリ、五輪が終わってもバリアフリーへの投資を続けてほしいものです。
執筆：マダム・カトウ
