2024年6月11日(火)、9日にEU加盟国で一斉に行われた欧州議会議員選挙の結果、フランスでは極右国民連合(Rassemblement National:RN)党が32%得票、マクロン大統領出身の与党ルネッサンス(Renaissance)党の15%に倍以上の差をつけ大躍進、フランスの議席81のうち極右党が30議席を占める結果となりました。これを受け、マクロン大統領はいきなり国民議会(下院)を解散、今月30日に総選挙となりフランス全国で衝撃が走っています。
「ポーカーの賭けに出た」のか?マクロン大統領
欧州議会選挙での大敗を喫してから約1時間後、マクロン大統領はテレビ演説を行い「民意を尊重するために解散、総選挙を行う」と発表しました。
欧州議会選で大敗しても国民議会を解散する義務はありませんが、自らの出身政党に「ノン」を突き付けられたマクロン大統領は、演説の中で極右は「フランス国民を貧困にし、国力を落とす」とし、国民に対し「自分たち、そして将来の世代のために正しい選択をすると信じている」と支持を訴えました。
総選挙まで20日を切っており、各党は16日までの間に立候補者を選抜、登録しなければなりません。
1996年シラク大統領期の与党、過半数落とし「ねじれ」国会に
メディアでは極右が勢いづく真っ只中の総選挙は与党ルネッサンス党に不利にもかかわらず、今回の解散は「理解不能」「賭けに出た」とみられており、その真の動機や勝算について議論が巻き起こっています。
なぜなら今から29年前、前回の国民議会解散後の選挙で、シラク大統領の出身母体の保守党は社会党に過半数を奪われ「ねじれ国会」となり、その結果首相が社会党のジョスパン(Lionel Jospin)氏になるという結果になっています。
パリと一部の市町村を除く、フランス全地方で極右が圧勝、なぜ?
パリ20区のうち極右が勝ったもしくは上位3以内に入った区は一つもありませんが、それ以外の自治体では、ごく一部の市町村、リヨンなどの都市内の一部の区を除きほとんどで極右が勝利しています。
フランス中部のアンドル県(Indre)では、すべての自治体で極右政党が勝っています。
物価高にあえぐ若年層、なのにウクライナ支援、国民には?
現在失業中で34歳のオリヴィエ(Olivier)さんは、メディアのインタビューに答え、国民連合が圧勝した理由を「何も変わらないから、別の政党にやらせてみる」と、次回の30日も同党に投票すると言います。
パン屋の店員だという21歳のジュスティーヌ(Justine)さんは、マクロンが政権をとってから何年も経つが「何も変わらないどころか悪くなった」また、「フランスは電気を自給している国なのに「電気代が高騰するのはおかしい」し、「スーパーでカートいっぱいに買い物すると今では200ユーロ(約34,000円/1ユーロ=約170円)もする」と、物価高などを理由に国民議会選挙でも極右に投票することにしています。
オリヴィエさんはまた「俺たちは若い。若い時はお金がなくて大変なんだ。ウクライナにはたくさんの支援をするのに、フランス人にはなにもない」とコメントしました。
社会の閉塞感、極右で「なにか変わるかもしれない」
フランス東部にあるマルヌ県(Marne)では、若干28歳の党首ジョルダン・バルデラ(Jordan Bardella)氏が率いる国民連合が実に55%もの得票率で当選しました。この町で働く60歳のジル(Gilles)さんは、「起こるべくして起こった結果。左派政党もダメ右派もダメ、だったら新しい政党にやらせたらなにか変わるかもしれない」とコメントしています。
今年、定年の最低年齢が62歳から64歳に引き上げられたことに触れ、「若者の失業者がこんなにいるのに、なんで俺たちみたいな高齢者をより長く働かせるのか」、「することがない若者のグループが悪さをしていて治安が悪化している」と現政権への不満から、フランスを再建するには新しい政党が必要だと考えています。
左派にも幻滅、治安悪化で国境再び期待
左派の支持者だという年金生活者ジャクリーヌ(Jaqueline)さんですが、「物価高で本当にお金がない。若い連中は失業していてもなんの不自由もなく暮らしている。そのお金は一体どこからくるのか?」、左派は社会保障を手厚くしすぎているから極右に投票すると言います。
やはり年金生活者のフィリップ(Philippe)さんは、極右政党が政権をとれば「年金額が引き上げられる」ことを期待し、ジャン=イヴ(Jean-Yves)さんは、最近の治安の悪化から国境を再び設けるべきだと主張しています。
国民議会選挙、マクロンの負けなら28歳の極右派首相が誕生
世論調査会社イプソスの調査によると、国民連合への支持は、「富裕層」を除き、すべての年齢層、性別、職業に関係なくフランス国民全体で大きく伸びています。
続いて、左派連合の22%(-3%)、与党ルネッサンス党19%(-6%)、保守共和党(LR)9%(-2%)、社会党を含む左派その他の党9%となっています。※カッコ内は2年前との比較
これまでもフランスでは、大統領決戦投票で極右ル・ペン(Le Pen)氏が残るたびに「極右への反対票」でなんとか極右大統領の誕生を阻止してきました。
しかしながら今回、ダムが決壊したかのような勢いで極右支持が伸びており、左派の伝統が根強かった?フランスの右傾化が顕著になり、バルデラ氏というフランス初の20代、極右の首相が誕生するのか、今月末の1回目投票、7月7日の決戦投票の結果が注目されます。
執筆:マダム・カトウ
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