2024年5月28日(火)、14回優勝を誇るラファエル・ナダルの復帰と1回戦敗退の驚きで幕開けした全仏オープン「ローランギャロス」(Rolland Garros)、由緒あるこのテニス大会の観客席に「フランス人応援団」という新しい現象が起き、仏選手が「パワーをもらった」と称賛するなど、話題になっています。
学生5~6人が発足、フランス選手応援団
伝統を重んじるスポーツであるテニス、騒ぐと審判に注意され、シーンと静かになるまでプレーを再開しないため、観客がヤジをとばしたり、自分の応援する選手の対戦相手のミスに拍手したりという光景は少ないスポーツといえるでしょう。
近年、このテニスの試合の禁欲的な雰囲気が崩れてきた印象をうける中、フランス人の「応援団」なるものが登場しています。
ル・コック(”Le Koq” )とラ・トリビューン・ブルー(”La Tribune Bleue”)はいずれも学生数人が作った応援団で、彼らはフランス人選手の強力な応援をします。
テニスの試合ですから、ヤジを飛ばすなどのマナー違反はしませんが、観客の応援や会場の雰囲気は選手の心理に大きく影響することは周知の事実です。
フランス人選手も「応援のおかげで勝った」、応援団参加者急増
応援団はすでにいくつもの試合の「追っかけ」をやり、仏選手の応援で勝利に貢献していますが、今回のローランギャロスではクロエ・パケ(Chloé Paquet)選手の第一戦の勝利に大きく貢献したことから注目され、このグループに参加したいというフランス人サポーターが急増しました。
パケ選手がインタビューで「応援団のおかげもあってピンチを切り抜けた」と発言したことが彼らの知名度アップに大きく寄与しています。
参加希望者には応援団のステッカーが配られるだけですが、「みんなでフランスの選手を応援しよう」という一体感を醸し出しています。
ところが、参加者が増えると問題も起こってきます。
ステッカー配布で知名度アップも主催者から警告
ステッカーは参加者がTシャツや帽子に貼るためのものですが、試合後に観客席のいたるところに貼って帰る人が続出してしまいました。
そのため、会場の警備から注意のメッセージがきてしまい、ステッカーの配布を中止せざるを得なくなりました。
「せっかく知名度アップになったのに」、今年3月のエストリールトーナメント(tournoi d’Estoril)で結成した時からのメンバーの一人、アンゲラン(Enguerran)さんは悔しがっています。
試合直前のウォームアップ時に「ラ・マルセイエーズ」の合唱
ラ・トリビューン・ブルーのポリシーは、テニスのマナーを守り、あくまでの応援する選手を激励するものです。
つまり対戦相手のダブルフォルトに拍手をしたりなど、「サッカーの試合じゃないから」相手にダメージを与えるようなことはしません。
自らがこの「応援団のファン」になったという、女子テニス世界ランキング133位のパケ選手は、このグループに次の試合の3人分の招待券をプレゼントしました。
彼女は「フランスでフランスの選手がフランス伝統のローランギャロス大会で試合をする」中、「フランス人の応援団がバックアップしてくれることはすばらしい」とコメントしています。
試合中には禁止されているため、試合前のウォーミングアップ中に行われるフランス国歌(”La Marseillaise” )の大合唱は、対戦相手にとっては敵に囲まれている「アウェイ感」が醸し出され、プレッシャーが増すことは間違いありません。
ル・コック応援団、全豪オープンで貢献、仏テニス協会は歓迎
もう一つの応援団、ル・コックはメルボルンで開催された全豪オープンでフランス人選手の応援を繰り広げ、フランステニス協会の目に留まります。
協会は、この応援団が「フランステニス界の人気上昇に貢献する」と協力を申し出、大会3日目からメンバーを試合に招待します。
ラ・トリビューン・ブルー同様、ル・コックファンの選手がいます。
アルチュール・カゾー(Arthur Cazaux)選手、ヴァン・アッシュ(Van Assche)、フィス(Fils)選手、オセアン・ドダン(Océane Dodin)選手らで、試合のたびに招待しています。
全仏オープンの覇者、いつか再びフランス人に
ル・コックのメンバーは「フランス人選手が出るかぎり、試合に招待される」とコメントしていますが、世界で無名なフランス人選手にとって応援団はありがたい存在です。
世界ランキング上位に自国の選手がいないせいか、ローランギャロスが「ホーム」だというスペイン人のナダル選手の人気が根強いフランスですが、近い将来フランス人選手がローランギャロスの覇者となることを、サポーターと協会が一丸となって実現したいところでしょう。
執筆;マダム・カトウ