2025年5月23日(金)、今週月曜よりフランス各地で行われているタクシー運転手のストは、本日5日目に突入しました。パリでは、シャルル・ドゴール空港行きの道路でウーバーやボルトといった配車サービスに所属する車の通行を妨害したり、地方からのタクシーが数百台で大通りを一部封鎖するなどで交通に乱れがでています。タクシー業界は、政府が発表したタクシーによる医療搬送の新しい料金体系に強く反発、撤回を要求しています。
タクシー業界、医療搬送料金改定に猛反対、政府は膨らむ医療費にメス
フランス東部のストラスブール(Strasbourg)では、タクシーが病院への道路の一部を占拠し、パリでは昨日数百台のタクシーが市内に集結してデモ行進を行うなど、タクシー業界は20日(月)からフランスの至るところで道路の一部封鎖やデモによる交通渋滞を引き起こしています。
医療搬送の半分はタクシー、地方のタクシーの売り上げ、医療搬送に依存
2024年には、通院を含む医療搬送を利用した患者は約300万人にのぼり、医療保険(Assurance maladie)からは総額67億ユーロ(約1兆890億円/1ユーロ=約162円)が支払われていますが、そのうちの約31憶ユーロ(約5,038憶円)がタクシー利用によるものです。
医療搬送がタクシー業界の売り上げにとっていかに重要であるかがわかります。
医療搬送を行うには健康保険局の許可を取得することが必要で、現在フランス全国に約40,000台の医療搬送可能なタクシーがあります。
これらのタクシーの売り上げに占める医療搬送の割合は地方に行くほど高くなり、地域によっては売り上げの80%以上を占めることもあります。
フランスの医療搬送費、2019年比で45%増
コルマール(Colmar)のタクシー運転手ステファン(Stéphane)氏は、コルマールからストラスブールの病院までの約73キロを往復し、現在240ユーロ(約円)稼いでいます。新料金体系になるとこれが半分になると言います。同氏はまた、コロナ禍の前は売り上げに占める医療搬送の割合は40%程度だったものが、コロナ禍以降その割合が85%にまで増えたと述べています。
新料金体系には、通常のタクシー同様初乗り料金のような固定料金も導入され、全国一律13ユーロ(約2,100円)ですがパリなどの大都市では渋滞を考慮して28ユーロ(約4,200円)に設定されています。
健康保険局、片道カラで返すのを防ぎ、「皆がwin-win」になる
健康保険局パリ地域の部長、トマ・ファトム(Thomas Fatôme)氏は、「長年の料金体系の変更に抵抗がある」ことに理解を示しつつも、固定料金の設定は多くのタクシー運転手にとって「旧料金体系よりも有利」だと主張しています。
固定料金の設定により、他の患者の搬送と相乗りにしたり、「空でタクシーを返すことが回避できる」と同氏はみています。
現在、医療搬送のタクシー料金は一キロメートル当たり1.67 ユーロ(約270円)ですが、改正法案が議会で承認されれば、今年10月からは1.04ユーロ(約168円)になる予定です。
ウーバーやボルトの運転手との対立が再燃、タクシーが通行を妨害
今回の料金改正が引き金となり、タクシー運転手と、ウーバーやボルトといったプラットフォームに所属するVTC(配車サービス)運転手との間の古くからの対立が再燃しています。
パリの空港手前の道路でウーバーの通行を妨害、乗客が車を降りて歩いてターミナルに向かうといった事例も発生しています。
配車サービスが普及してずいぶん経ちますが、タクシー運転手の間には、比較的簡単に仕事ができる配車サービスに「仕事を取られた」恨みが根強く残っています。
全国タクシー連盟(Fédération nationale du Taxi : FNDT)は、今回の料金体制「改悪」は、タクシー業界にはさらなる逆風となり、タクシーの30%は廃業すると危機感をあらわにしています。
タクシー業界、改正案の全面撤回を要求
同連盟は健康保険庁、政府に対し改正法案の全面的な撤回を要求しています。これに対し、政府は配車サービスの運転手の管理を強化することを約束すると発表しましたが、議論は進展していません。
明日、24日(土)にはバイル首相官邸で閣僚会議が開かれる予定ですが、フランス運輸省(Ministère des transports)があるパリのラスパイユ大通り(boulevard Raspail)では、タクシー業界によるデモが続けられ、政府に対して最大限の圧力がかけられる見込みです。
執筆:マダム・カトウ