フランス国民議会選挙、極右の公約で得するのは「富裕層」のワケ

2024.06.28

2024年6月28日(金)、国民議会選挙を30日(日)と目前に控え、世論調査で支持率30%以上を確保、「物価高にあえぐ庶民の味方」を前面に打ち出す極右党国民連合(Rassemblement national)の経済対策の公約について議論が盛り上がっています。「物価高にあえぐ庶民の味方」としてガソリンや電気代への減税を目玉にする同党の公約ですが、一方でその公約の中身が実は富裕層への優遇策になっていると指摘されています。

 

ガソリン、電気、ガス代の消費税減税は「愚策」のワケ

国民連合党首のバルデラ(Jordan Bardella)氏は「国民の購買力を上げる」ため、「欧州他国ではすでに減税されている。フランスも他国並みに減税をする」とし、車で通勤をする有権者や企業の競争力を上げるため、ガソリンや電気代に課されている消費税20%を5.5%に減税すると発表しました。

消費税の減税は、経済学者や専門家、さらに会計監査院(Cour des comptes)のいずれからも支持されていません。

その理由として、まず、選挙公約として非常に魅力的に見えるこの減税を行うことで、安く見積もって120億ユーロ(約2兆625憶円/1ユーロ=約171円)、経済省の計算では170憶ユーロ(2兆9217億円)の税収が失われることになり、国にとって非常に高くつくことがあげられます。

減税分は消費者に還元されるのか?

最大の問題は、これだけの減税を行ったにもかかわらず、そもそも企業は減税分を価格に反映させ、値下げをするのかということです。

誰もが忘れているようですが、2009年、レストランの課税額が%19,6から5.5%に減税されましたが、「今まで薄利で経営が苦しかったからその埋め合わせだ」という理由で、多くのレストランは価格を据え置き、値下げをしたレストランはごくわずか、末端消費者への還元はほとんどありませんでした。

今回の減税でも、巨大なエネルギー系企業が減税分でさらに巨額の利益を得ることが懸念されます。

減税分、価格に反映されても一番得するのは金持ち

では、ガソリンや電気、ガスの値段が下がった場合はどうかというと、やはり富裕層が最も得することになります。

富裕層は大きなアパートや家を持っており、電気代や暖房費も多くかかります。大きな車、よりガソリン代のかかる車を所持、場合によっては数台持っていたりします。

経済学者の説明を聞かなくてもわかるように、収入が高い人は消費額も高いわけで、そうすると減税で恩恵を受ける額も高くなるからです。

 

30歳未満の所得税免税、エリート層、スポーツ選手も対象

「30歳未満の若者には所得税を徴収しない」とバルデラ氏は収入の少ない若年層への支援を打ち出します。(ちなみに28歳の本人も免税対象に)

ところが、現時点でもこの層の55%は低所得のため所得税を一切払っていません。

この減税策で最も得するのは、30歳未満の有権者の25%に当たる、所得の最も高い大企業に勤めるエリート校出身者や若い起業家などです。

加えて、年間何十億も稼ぐサッカー選手など、トップクラスのスポーツ選手も対象になるこの減税で、約30億ユーロ(約5156 億円)もの税収が失われます。

すべての人が払う消費税の減税は、低所得層、中間層を優遇する策に見えますが、富裕層がより豊かになることを助長し、国に入るはずの莫大な税収が失われ、結果的にどこかで増税をし、帳尻を合わせなくてはならなくなります。

 

資産家が勝ち組に、富裕不動産税廃止

再三にわたり「給与所得だけで食べられない今のフランスはおかしい」と、支持を訴える国民連合(RN)ですが、公約の一つに富裕不動産税(L’impôt sur la fortune immobilière :IFI)の廃止があります。

これは、所持する不動産の総額が80万ユーロ(約1億3700万円)以上の場合に掛けられる税金です。

マクロン政権前には、現金と不動産の両方を合わせて課税する富裕税が存在していましたが、同政権が不動産のみへの課税に切り替えたものです。

マクロン大統領は、就任直後にこの富裕税を廃止したことで「金持ちの味方」のレッテルを貼られてしまいました。富裕税の廃止はこの層の海外への流出防止、および不動産の買い占めることを防ぐ目的もありました。

バルデラ氏は富裕不動産税を廃止し、株や現金などのみに課税する富裕動産税を導入しようとしています。

しかしながら、株取引などは海外で行うことも可能であることから、経済専門家から疑問の声があがっています。

 

贈与税の非課税枠拡大、やっぱり富裕層に得

極右党、RNの公約の一つに「親の世代より貧乏」といわれる若年層への優遇策として、親から子供、祖父祖母から孫への現金の生前贈与の非課税枠の拡大があります。

現在、15年に1度、10万ユーロ(約1700万円)未満の贈与を行った場合非課税となっていますが、これを10年に一度に変更するというものです。

フランス国立統計経済研究所L’Institut National de la Statistique et des Études Économiques :INSEE)の発表によると、フランスにおける生前贈与の81%、相続の87%はそもそも10万ユーロ未満であるため、この政策で得するのはやはり贈与額が大きい富裕層になってしまいます。

世論調査会社イフラプ(Ifrap)の計算では、国民連合の政策が施行された場合、毎年現在の赤字に加え100億ユーロ(約1719億円)の財政赤字を生み出すことになると警鐘を鳴らしています。

執筆:マダム・カトウ

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