2024年5月17日(火)、「インターナショナル・レスティテューション」(英:国際返還協会:”International Restitution”)と名のる謎の団体が、ルーブル美術館が所蔵する世界で最も有名な絵画『モナリザ』(”Joconde”)の返還を要求する訴訟を起こしました。フランス国務院(Conseil d’État)は訴訟は根拠がないとし「却下」しました。
モナリザをダヴィンチの遠い子孫?に返還要求
当然の結果として、「モナリザ」は今後もルーブル美術館が所蔵し続けることになりました。
インターナショナル・レスティテューション協会と名乗る団体は、1519年、フランス国王フランソワ一世(François 1er)が、このレオナルド・ダ・ヴィンチ(Léonard de Vinci)の名画を「わが物にする」とした決定が違法だとし、ダヴィンチの遠裔である「相続人」に返還すべきだと訴えを起こしました。
しかもこの団体の本拠地の住所や運営者の名前も不明、国務院は訴えを「きわめて不当な訴え」であるとして却下し、さらに罰金3,000ユーロ(約504000円/1ユーロ=168円)を請求しました。
訴え成立せず
同協会は「公共の所有物」に認定されている財産をその正当な持ち主に返還する活動を行っていると主張していますが、国務院にしてみれば「正当な持ち主」と主張する本人だけが返還要求の訴えを起こす事ができるため、訴え自体が成立しません。
行政裁判官にしてみれば、アンシャン=レジーム(Ancien régime)、つまり18世紀末のフランス革命以前の封建体制下で行われた決定について吟味するのは彼らの任務ではありません。
謎の返還団体、フォンテーヌブロー城所蔵品でも提訴
インターナショナル・レスティテューション協会は2022年末にもフォンテーヌブロー城内にある中国博物館(Musée Chinois)の所蔵品は、1860年、ナポレオン三世下のフランス軍が北京の頤和園から略奪したものだとし、「所蔵品リストからの削除」を要求する訴えを起こしています。
国務院は前述の理由でやはり訴えを却下しています。
モナリザ、1516年からフランスに
ルネサンス末期のイタリア、メディチ家からの庇護を失ったダヴィンチは1516年、フランス国王フランソワ1世の招きでフランスに居を移し、アンボワーズ(Château d’Amboise)城近くのクロ・リュセ(Château du Clos Lucé)城内で晩年を過ごしました。
引っ越しの荷物の中に入っていたのが「モナリザ」で、ダヴィンチはこの絵をフランソワ一世に献上、その対価としてちょっとした額の年金を受け取りました。
モナリザはその後王家のコレクションとして保管され、1797年、その4年前の93年に正式に美術館として開館したルーブル美術館(共和国美術館:Muséum central des arts de la République)に収められました。
それ以降、そして今後もこの絶世の美女がルーブルを離れることはありません。
執筆:マダム・カトウ