フランスの有名な画家といえば、印象派の画家たちを思い浮かべる方は多いかもしれません。その印象派誕生に大きな影響を与えたのが、ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugène Delacroix)です。上に掲げた「民衆を導く自由の女神(La Liberté guidant le peuple)」は目にしたことがある方もいるでしょう。とてもインパクトがある作品です。
フランスの有名な画家を紹介するシリーズ、今回はドラクロワです。
ロマン派絵画の代表
ドラクロワはロマン主義的な作風の傑作「ダンテの小舟(La barque de Dante)」で画壇デビューします。これはロマン派の先駆者テオドール・ジェリコー(Théodore Géricault)の「メデューズ号の筏(Le Radeau de la Méduse)」という作品からインスピレーションを受けて制作されました。
ロマン派とともに当時流行していた新古典主義の代表格であるドミニク・アングル(Dominique Ingres)とは、ライバル関係にありました。
同じ古典的主題をモチーフにしていても、新古典主義の画家が非現実的な理想像を描いたのに対して、ロマン主義に属するドラクロワの絵画はより人間的でドラマチックな表現を大切にしています。
ドラクロワ作品の特徴に「激しい筆のタッチ」と「豊かな色使い」がありますが、このふたつがロマン派としての魅力をより一層引き立てていると言えるでしょう。
色彩の魔術師として
ドラクロワが得意とした巧みな筆使いと豊かな色彩は、のちの印象派誕生に大きな影響を与えました。前回ご紹介したポール・セザンヌ(Paul Cézanne)もドラクロワを崇拝しており、幾度となく彼の絵画を模写し熱心に研究しています。
オリエンタリズムへの傾倒
ドラクロワの色彩表現がよりいっそう開花したのは、1832年にフランス政府使節団の一員として北アフリカを訪れたときのことです。そこで出会った女性をモチーフにした「アルジェの女たち(Femmes d’Alger dans leur appartement)」はその代表的な作品です。
北アフリカの強烈な太陽とオリエンタルな雰囲気をもつイスラム文化の色彩との出会いが、ドラクロワの絵画表現の変化に深く関わったことは間違いないでしょう。
こうしたエキゾチックな主題への傾倒は、象徴派の画家ギュスターブ・モロー(Gustave Moreau)やエドヴァルト・ムンク(Edvard Munch)にも影響を与えています。
教会のフレスコ画もぜひ
「民衆を導く自由の女神」や「アルジェの女たち」のほかには、パリのサン=シュルピス教会にある晩年のフレスコ画も見逃がせません。
私も現地で2回ほど観る機会がありましたが、ドラクロワらしい筆致と色彩を感じられました。その中でも「天使とヤコブの闘い(La Lutte de Jacob avec l’Ange)」は、ドラクロワの特徴であるドラマチックな表現と色彩の調和が美しい作品です。
パリではドラクロワの生涯を追える国立ウジェーヌ・ドラクロワ美術館がメジャーですが、静謐な空間で鑑賞できるサン=シュルピス教会にもぜひ足を運んでみてください。
執筆 KEIJI
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